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チェチェンの「黒い未亡人」戦士が日本に現れる


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月村了衛『機龍警察 未亡旅団』早川書房、2014)

 

 機龍警察シリーズの第4弾(2014)。近未来の警察の戦いを機甲兵装を中心に描くシリーズである。

 個人用兵器である機甲兵装の搭乗者が大人という通念に対し、本作において、少女が搭乗する。しかも、自爆も辞さない「黒い未亡人」(チェチェン紛争で夫や家族を失った女性だけからなるイスラム武装組織)に属する少女である。本来、大人の女性が戦ってきたのに対し、少女が参戦するようになった。新しい小型の機甲兵装「エインセル」に身長156センチ以下の者しか乗れない事情が関係する。

 対峙する日本の警察の戦法が困難を窮める。未成年者に自爆されてしまえば非難される。その前に搭乗者を安全に確保せねばならない。

 この戦いに日本の政界の闇がからみ、密度の濃い文章が織りあげられてゆく。戦いの現場と、その裏でうごめく影のある者たちと、その両方の描写が秀逸である。

 「エインセル」とは「イングランド北部のノーサンバーランド地方に棲む少女の妖精であると云い、また<自分自身>を意味するとも云う」と本書にある。これについて関心ある人のために附言する。Ainsel をスコットランド英語の ain sel と解釈すれば own self の意である。オデュッセウスとキュークロープスの挿話で、オデュッセウスが自らをウーティス(nobody の意)と名乗り、あとでキュークロープスが仲間に「誰でもないやつにやられた」と叫んだところ馬鹿にされる。その種の妖精譚(Aarne-Thompson-Uther の類型番号 1137)に属する。

 

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