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アイリシュ・コネクション炸裂――東京のどまん中で


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月村了衛『機龍警察 自爆条項 (下)』早川書房、2012)

 

 上巻でライザの出自たる北アイルランドのことはある程度説明された。もう一つの謎である高度の戦闘能力のほうはこの下巻で解明かされる。シリアのムハーディラ(アラビア語で「講義」の意味)で訓練を受けたのである。

 ところが、そもそも、なぜIRF(北アイルランドのテロ組織)闘士であったライザが組織を抜け、今やそこから命を狙われることになったかも謎であった。それも下巻で明らかになる。

 さらに、来日するイギリス高官の暗殺をはかるIRFが、同時にライザの処刑を狙うだけでなく、「第三の目的」まであることが明らかになる。また、その動きとからんでシナの黒社会の影がちらつく。さらに、日愛中の三者すべても呑みこむような「敵」と呼ばれる存在も浮かび上がる。

 なにより、本書を読み始めてからずっと疑問だった「自爆条項」の不吉な響きは何なのか。これらの謎もろとも、すべての要素が一挙に収斂してゆき、怒涛のように最後の首都決戦へと雪崩れこむ。すべての権謀術数は機甲兵装を中心とする闘いにおいて炸裂する。

 IRFを指揮するキリアン・クインのあだ名<詩人>はアイルランドにはふさわしい。古代から今に至るまで、アイルランド社会では、聖職者を除く世俗の人としては、詩人は最高の尊敬を集めている。エリザベス女王の訪愛時(2011年5月)、同じテーブルについたのは政治家などではなく、ノーベル文学賞受賞詩人のシェーマス・ヒーニだった。

 つまり、それだけ、詩人の有する叡智は重きをおかれている。キリアン・クインの立てる戦略は、その詩人なみの智慧を発揮し、特捜部を指揮する知者沖津をも唸らせる。

 そうした最高の頭脳どうしの戦いと、最高の戦闘力の機甲兵装どうしの闘いが、からみ合い、はじける展開は圧巻である。

 

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