アクースティック・ギター一本でアルバム一枚を聞かせてもまったく飽きさせないくらいギターがよく歌うエマニュエル
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Tommy Emmanuel, Endless Road (CPR Entertainment, 2004)
オーストラリアのギタリスト、トミー・エマニュエル が2004年初めに発表したアルバム。
ギターの心得のある人がこのアルバム Endless Road のトラック15冒頭を聞けば腰を抜かすのではないか。何か分からないが、まるで天空からキラキラしたものが降ってくるような、そういう音が聞こえるのだが、これがギターの音だとはにわかには信じられない。
驚いているうちに、なじみ深い 'Somewhere Over the Rainbow' のメロディーが聞こえてきて、ああ、あれは虹を表していたのだなと感づく。
虹を初めて見た人類は、あり得ないものを見てしまったと、さぞかし仰天したことと思うが、この信じがたさをギターで表現しようとすれば、こういう信じがたい音になるのだろうと納得する。思えば、人類および生きとし生けるものを存続させるため箱舟をつくったノアと神が交わした契約のしるしは虹だった(創世記9章12-17節)。
トミー・エマニュエルはバカテクのギタリストとして、ギター小僧のなかでは知らぬ者はない……かどうかは知らない。が、まあ、チェト・アトキンズ以来のギターの系譜を追いかけている人なら、知らぬ人はないだろう。彼こそは、CGP (Certified Guitar Player) の称号をチェトから正式に受継いだギタリストだからだ。
世評は知らないが、彼ほど「歌う」ギタリストはまたとない。アクースティック・ギター一本でアルバム一枚を聞かせてもまったく飽きさせないくらい、ギターがよく歌っているし、アルバムの終わりには文字通りの「歌」も聞かせ、テクニックだけでなく、素朴な歌心が底にあることをリスナーは感得させられるのである。
彼の特徴は、いちむらまさきさんの説明によると、カントリー・ギターの二大奏法である、ギャロッピングというフィンガー・ピッキング奏法と、スティール・リックスという速弾きとの両方において達人であるということだ。確かに、フィンガー・ピッキングもメロディの速弾きも、どちらもめちゃくちゃうまい。チェト・アトキンズが跡継ぎに指名するはずだ。それから、<虹の彼方に>をはじめ随所に聞かれるハーモニクスの見事さ。まったく唸るしかない。
トミーのオーストラリアにおける位置は、アメリカにおける(かつての)ジェイ・グレイドンのようなものだ。つまり、スタジオ・ギタリストとしてナンバー・ワン。トミーはアメリカでも高い評価を得ている。また、英国でも同様で、2004年3月中旬に行った英国公演はまたたくまに売切れたという。おそらく、生で見たいギタリストの人気投票をすれば上位の数人に入るだろう。
もし、このアルバムがあまり知られていないとすれば、それはひとえに入手が困難だったからだろう。けれど、苦労してでも入手するだけの価値はあったし、今は容易に入手できるようだ。
参加アーティスト――
Tommy Emmanuel (g, vo)
Elizabeth Watkins (vo)
評価―― ★★★☆
トラック15 Tommy Emmanuel, 'Somewhere Over the Rainbow'
Somewhere Over The Rainbow | Songs | Tommy ...
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