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たましいをゆさぶられるアルバム


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Doimnic Mac Giolla Bhríde, Saol na Suailce: Sean-nós as Tír Chonaill (DMGB 001, 2004)

 

 ドネゴール県デリベグ出身の ドミニク(ドゥィムリク)・マク・ギラ・ヴリージェ。ソロ第1作。アルバム・タイトルは「楽しい生活――ドネゴールのシャン・ノース歌唱」の意。

 たましいをゆさぶられるアルバム。後世にまで語りつがれるだろうアルバム。

 目を閉じて聴いていると、ドネゴールの風景が、とりわけ荒涼たる海や山や空の風景が心に浮かぶ。貧しいことが逆説的に強さになるような、そんな胸をしめつけられるような感動を覚える。

 粗削りの面もあるが、この勇者、ドネゴールの若獅子の実力は隠しようもない。恐らく各誌で絶賛されるだろうが、だれが何を言おうが関係ない。

 一番ショックを受けているのはアイルランドの若手のアーティストたちだろう。自分たちの原点を掘り起こされたとの思いで奮い立ったのではないかと想像する。これほど強烈なメッセージがアイルランドから発信されるのを聞くのはいったい何年ぶりのことだろうか。

 本アルバムは、最近の優秀な新進アーティストのアルバムのつくりとはまったく違う。名うてのミュージシャンを大勢呼んできて洗練された音づくりを目指す方向とはまったく違うのだ。そういう加糖処理や、化粧はいっさいない。そのための予算もなかったのだろうが、そんなことは問題ではない。

 問題はここに差出された音の中身だ。おれたちはこんな音楽をやる。だれの手も借りない。よかったら聞いてくれ。そんなそっけなさのなかに高潔な心意気を感じる。

 しかし、実際にはアイルランド語放送局やアイルランド語庁(Foras na Gaeilge)など四機関が本アルバムを後援しており、次代をになうこの若者をほうってはおかない。

 たとえて言うと、あしたのジョーに、忘れかけていた真のハングリー精神を想いおこさせる路地裏の眼光鋭い少年みたいなのが、この Doimnic Mac Giolla Bhríde なのだ。(← 意味不明)

 今は新しい伝説の誕生に静かに乾杯したい。

 おめでとう、a Dhoimnic!

 参加アーティスト――

  • Doimnic Mac Giolla Bhríde (vo, uilleann pipes, etc.)
  • Niall Hackett (bouzouki, etc.) 他

 評価―― ★★★★

*1

 

 このアルバムの5年後、彼は2009年にオリアダ杯を獲得し、名実ともにアイルランドを代表する歌い手となった。

 

2006年の貴重な動画(FKWSで彼が教える歌のクラスで唄った 'An Draighneán Donn')


Doimnic Mac Giolla Bhríde - YouTube

 

*1:評価は五つ星を最高とする尺度によっており、星の数による意味は、「★ 良い点をさがすのが困難」 「★★ かなり良い」 「★★★ 第一級(年間ベスト・アルバム・クラス)」 「★★★★ 群を抜いてすばらしい、すごい、数年に一枚出るか出ないかのクラス」 「★★★★★ 大傑作、不朽の名盤、その分野の古典と呼ばれるに値する」です。つまり、通常、「最高」と呼ばれるようなものは三つ星です。