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絵に魂を吹き込む浮世絵師蓮十の物語その二


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かたやま和華『不思議絵師蓮十―江戸異聞譚〈2〉』アスキーメディアワークス、2013)

 

 文化文政のころの江戸。当時はバブル経済の絶頂のような時期であり、町人は桁外れに贅沢な暮らしをしていたと書物に書残されているとか。

 その頃、娯楽文化が円熟し、絵師や戯作者、役者といったエンターテインメイント系の職業はスター誕生の舞台でもあったらしい。絵筆一本に夢をかける若き絵師、石蕗蓮十(つわぶきれんじゅう)の物語の第2弾。蓮十の筆にかかると、ほころびをわざとつけないかぎり、絵に魂が吹き込まれ、絵が動き出すことがある。その不思議な絵にからむ物語が3篇収められている。

 第一話「鼠と猫」は鼠除けの猫の絵を描く話。蓮十の友人の歌川国芳(実在の浮世絵師)にはそんな絵が実際に残っている。国芳はかなりの猫好きだったらしい。蓮十の猫の絵はまかり間違えば絵を抜け出て鼠を追っかけかねない。ところが、「鼠」には盗人の意味もあることから話はややこしくなってくる。

 第二話「青葉若葉」は蓮十が朝にもらった鯉が夕には松魚(かつお)に変わっていた次第を物語る四題噺。数奇な話だ。

 第三話「ろくろ首の娘」は鐘撞き堂の娘がろくろ首との噂がたつ話。蓮十は娘の父親に肉筆画の似顔を娘の見合いのために描いてくれとの依頼を受ける。その絵で噂を打ち消そうというねらいなのだ。

 全体に、当時の江戸の文化や風習などがよくわかり、文章も味がある。人情も細やかに描かれている。シリーズ第1巻にあったような、みっともない誤植の嵐もないので、やっとまともなスタートを切ったといえるかもしれない。