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亀井俊介(ホイットマン学者として著名)訳のディキンスン


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エミリー・ディキンソン『対訳 ディキンソン詩集―アメリカ詩人選〈3〉』岩波文庫、1998)

 

 岩波の対訳詩集としては標準的な訳と註です。

 春霞ととられがちの 'haze' をディキンスンは夏の終りの現象として詠うと捉えるのは卓見です。これは 'Besides the Autumn poets sing' (131) の詩の4行目に出てきます。第1連全体を引用します。

Besides the Autumn poets sing
A few prosaic days
A little this side of the snow
And that side of the haze--

 これは亀井訳では次のようになります。

詩人たちのうたう秋のほかに
いささかの散文的な日々がある
雪のちょっぴりこちら側
靄(もや)のあちら側の日々――

 この4行目に附けた註は秀逸です。

靄(haze)は春に生じることの多いものであろうが、ディキンソンはこの一つ前の詩〔130〕でも夏の終わりの現象としてうたっている。その「あちら側」とは秋の日々。

 'haze' を春の現象と見てしまうのは英詩しか読んでいない人に起こりがちの誤りで、米国では事情が異なります。

 この註じたいはよいのですが、ここの構文の取り方には賛成できません。1行目の 'sing' の目的語をその前の 'the Autumn' と取っているわけですが、そうすると、必然的に2行目の前に 'There are' などを補わなくてはなりません。20世紀以降の現代詩ならそれでもよいでしょうが、19世紀のディキンスンでその構文はふつうにあり得るでしょうか。現行のテクストに添うかぎり、'sing' の目的語は次行の 'A few prosaic days' 以下と取るべきです。

 エメラルドの空の詩(219)も収録しています。

 

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