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知らなかった引出しをいろいろ開けてくれる


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坂木司『青空の卵』東京創元社、2006)

 必ずしもぜんぶ趣味が合うというわけじゃない。

 が、合う部分はかなり合う。例えば。ミルク3分の1の濃い目のミルクティー。これは作中人物、鳥井真一の紅茶の淹れ方の好みだ。それからフレドリック・ブラウン。これは作者坂木司(この筆名は本作の登場人物からとられている)の好みらしい。ブラウンは創元推理文庫から出てたのはおそらくぜんぶ読んだくらい好きだ。

 鳥井は俺は、見えないものを無いものとして扱うことはできないという。見えないものを無視せず誠実に生きるのは、現実にはかなりきびしい。だけど、それをやってのけるだけの強さが鳥井にはある。この強さを発揮すれば世間とはおそらく合わなくなる。

 そんな彼がいろんな事件の謎解きをする。見えないものが存在する以上、そこには原因があるという信念を貫くからこそできるわざだ。繊細な感性に裏打ちされた、ねばりづよい頭脳。

 本書は「ひきこもり三部作」の第一作で、鳥井とその友人坂木が登場する短編が五つ集められている。中でも、盲目の青年、塚田基をえがく「秋の足音」が秀逸。目の見えない人の世界がどれほど豊かなのかを、その襞にわけいるようにしてえがきだす。この筆力には脱帽する。こうやって、作品ごとに、これまで知らなかったいろんな引出しをつぎつぎに開けてくれて楽しい。なお、評者が読んだ電子書籍版には北上次郎の解説は収録されていない。

 

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