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月村了衛の時代小説ここにあり


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月村了衛『一刀流無想剣 斬』講談社、2012)


 「機龍警察」シリーズでファンが多い月村了衛の長編第一作はなんと時代小説だった。

 第2回歴史時代作家クラブ賞の新人賞候補になりながら、惜しくも逃したけれど、これは「機龍警察」ファンも時代小説ファンも読んで損はない作品だ。

 時は戦国の世。家康の天下に移行しつつある。冒頭から謀反により追われる身となった美姫(びき)と小姓の二人組が命からがら逃げる場面が始まり、そのあと、息もつかせぬ展開がつづく。

 縁もゆかりもない一人の牢人が、この二人を、ただ生きたいと願ったがゆえに救う。救ったがために、この牢人も逆賊の一味から地の果てまでも追われる羽目に陥る。その逃避行と戦いのすさまじさに、巻措く能わざるとはこのことだ。

 黒い長羽織を引っ掛けた牢人は一刀流無想剣をきわめた神子上典膳(みこがみてんぜん)。その「一刀即万刀、万刀即一刀。一に始まり一に帰す。」と語られる剣さばきは寡黙な人柄とあいまって、まことに胸がすく。

 それにしても、月村了衛は本物のスタイリストだ。文体の冴えは、近未来であろうが文禄の乱世であろうが、まったく変わらない。