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ビッグデータと個人情報の闇を抉る


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藤井太洋ビッグデータ・コネクト』(文春文庫、2015)

 

21世紀の警察小説

 『オービタル・クラウド』(2014)に続く長篇小説。これまでSFばかりだったけれど、これは警察小説。

  警察小説ではあるけれども、ビッグデータ(従来のデータ処理では扱えぬほどの巨大で複雑なデータの集積)と個人情報がテーマといっていいIT小説でもある。ここまでエンジニアの現場に肉薄した作品はめずらしい。

 近い将来にこういうビッグデータがらみの危機が起きるのではないかという意味ではSF的なところもある。大規模な個人情報流出なら今でも起きているが、本小説はそのさらに先を技術的に予測する面がある。

武岱

 語り手は京都府警サイバー犯罪対策課の万田警部。万田はコンピュータ・ウィルスを作成した容疑で武岱(ぶだい)修の取調べを続けていたが、不起訴に終わる。

 武岱は弁護士の赤瀬香歩里(かおり)と組んで、自分を拘留に追い込んだ者たちを一人づつ裁判で追い込んでゆく。この武岱という人物の、その名前の響きに見合う存在感の大きさが、この小説の魅力の過半を占める。

 新しい型のITヒーローとして、将来別の小説で戻ってきてくれるとうれしい。

物語

 そんな中、新たな事件が起こる。行政サービスの民間委託計画の中心にいたエンジニアが誘拐されるのだ。万田は武岱に捜査協力を求めることになる。

 その計画「コンポジタ」が扱うビッグデータには個人情報の危機につながる秘密が隠れていた。

 タイトルの「ビッグデータ・コネクト」の意味は最後に明らかになるのだけれど、そこまで怒涛のように物語は進む。

外字

 作者はSFだけでなく警察とITとがからむ、まさに現代的なテーマにおいても十分おもしろい小説が書けることを証明した。

 日本のビッグデータの特殊事情である外字の問題やヒューリスティック(発見的探索)関数、およびスマホとSIMの問題などに関心のある人には、その方面でも大変興味深いだろう。

 斉藤の”斉”だけで、日本の戸籍には五十以上の形があるという驚きの話の後に、書き間違いを登録し続けた結果、「膨れあがった文字数」が各自治体に登録され、その総数が九十万を超えるという仰天の暴露がある。漢和辞典にも文字は五万しかないのに。