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次の世代へおくるアイルランド語歌


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Gearóidín Breathnach: Grá mo Chroí an Óige (CIC, 2013)



 現代のシャン・ノース歌唱(アイルランド語無伴奏歌唱)を代表する女性歌手のひとり、ガロージーン・ブラナハの2013年のアルバム。児童に唄ってもらいたい歌を記録に残す意味で作成された。ブラナハの他のアルバムは現在入手困難なので、本CDは貴重である。

 児童にも聞きやすいようにとの配慮から、めずらしくキーボード伴奏が入る曲がある。が、歌詞の聴き取りを邪魔しないよう控えめなものである。

 ブラナハいわく、「つまるところ、歌唱で最も大事なのは、聴き手が歌詞が分かるということである」('when all is said and done one of the most important aspects of singing is that the listener is able to make out the words')。

 この信念は古風な伝統主義者のそれのように聞こえるが、シャン・ノース歌手としての彼女には譲ることのできない一線である。また、そうでなければ、シャン・ノースの最高位「オリアダ杯」を獲得することなど不可能である。

 ブラナハがオリアダ杯を取ったのは1996年と2004年の2回である。いまもオリアダ杯をめぐるコンテストには毎年出場し続けている。2014年の大会も出場者リストにあったが、残念ながら欠場していた。

 ガロージーン・ブラナハの声は一聴してすぐ分かる。一度でも彼女の歌を聴いたことがあれば、どのような歌唱か、説明は不要である。本 CD に収められた歌唱はどれも非の打ち所がない。

 ドネゴール(アイルランド北西部)の最良の歌い手の例にもれず、このうえなく柔らかな声で、歌をつつみこむように唄う。歌唱のすべては、歌を聴き手に届けることに捧げられている。歌詞を正確に丁寧に唄う。歌にこめられた情緒を余すことなく伝えようとする。歌の背景の世界観をまるごと引受けて伝達に徹する。誠心誠意つたえる。

 コナマーラ(アイルランド西部)の歌い手と異なり、ドネゴールの歌い手がつける装飾音は最小限である。歌の旋律の骨格がくっきりと浮彫りになり、旋律と歌詞とが柔らかな声によりブレンドされる。聴き手は最上の体験をしているという至福感につつまれる。

 アイルランド伝統歌に関する現代の最高権威リリス・オリーレ(Lillis Ó Laoire)が本CDについてこう語る。

Sa chnuasach seo, tá Gearóidín Breathnach ag déanamh seirbhís mhór dá pobal. Cuireann sí amhráin a bhí againn uilig ar an scoil ar fáil arís ar dhóigh a mbainfidh páistí scoile de gach aois taitneamh astu.


(このアルバムで、ガロージーン・ブラナハは人々に大いなる益をなしている。学校でみんなで唄っていた歌が再び手に入るようにし、その結果、すべての年齢の学童がこれらの歌を楽しんでゆくことだろう。)


 アイルランド語文章のお手本のような格調高い言葉である。自身ドネゴールを代表する男性歌手であるオリーレのこの言葉は、お世辞でもなんでもない、正真正銘の賛辞である。


収録曲

  1. Mo Mhadadh Beag
  2. Cruacha Glas na hÉireann
  3. Cad É Sin don Té Sin
  4. Labhair an Teanga Ghaeilge
  5. Bog Braon don tSeanduine
  6. Tuirne Mháire
  7. Siobhán Ní Dhuibhir
  8. Gardaí an Rí
  9. Cill Aodáin
  10. A Stór a Stór a Ghrá
  11. Óró Sé do Bheatha Abhaile
  12. Preab san Ól