アイルランド語訳聖書――格調高く読みやすい
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Pádraig Ó Fiannachta, trans. & ed., An Bíobla Naofa (An Sagart, 1981)
クリスマスのミサの聖書朗読は三種類ある。夜半のミサ用(12月24日夜)、早朝のミサ用(12月25日早朝)、日中のミサ用(12月25日日中)の三つである。それぞれに違う箇所の聖書が朗読される。
もしも、アイルランド語で聖書を読もうと思えば、現行版では本書が唯一のものである。ペーパ版で小さめの判型にぎっしり旧約と新約の聖書が詰込まれているため、読むにはやや苦労する。楽に読みたい場合は、同じ内容をPDF化したものがコンピュータ用アプリケーションとして販売されている。
本書はアイルランドで最初にローマ・カトリック教会により印刷許可(imprimatur)が与えられたアイルランド語聖書である。どの国で発行されている聖書でも、この 'Imprimatur' の字が入っているものは正式認可の聖書である。
1981年にメーヌース・アイルランド国立大学により出版された。新約聖書の部分と旧約聖書の詩篇とは Coslett Quinn が1960年代に訳出した。
翻訳は実に格調高く、朗読にも読書にも適する。クリスマスの日中のミサ用に朗読される箇所のひとつ、旧約聖書(冒頭部分)を引用しておこう。イザヤの預言(イザヤ書) Íseáia 52章7節である。
Nach álainn ar na sléibhte
cosa an té a bhfuil dea-scéala leis,
síocháin á craoladh aige, maitheas á fógairt aige,
fuascailt á craoladh aige, á rá le Síón:
“Tá do Dhia tar éis teacht i réim.”
同じ箇所は新共同訳聖書では次のようになる。
いかに美しいことか
山々を行き巡り、良い知らせを伝える者の足は。
彼は平和を告げ、恵みの良い知らせを伝え
救いを告げ
あなたの神は王となられた、と
シオンに向かって呼ばわる。
この箇所は紀元前6世紀、イスラエルの民がバビロンで捕囚になっていた時代の預言である。シオンとはイスラエルのエルサレムのことで、当時廃墟となっていたエルサレムに救いが告げられる場面である。ミサでは、このあと、新約聖書の書簡につづき、福音書が朗読される。旧約聖書に預言されたことが新約聖書で実現されるという予型論的(typological)展開がミサごとに確認される。