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フィクションであると自分に言い聞かせながら読んだけど……


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コーマック・マッカーシーザ・ロード』(早川書房、2008)



 2006年発表の原著 The Road はピュリッツアー賞受賞(2007)。

 さらに、 '2006 James Tait Black Memorial Prize for Fiction' も受賞。

 訳文は句読点なし。かなり工夫した文体。ただし、直接話法の直後のみ読点が入る。

 これは、原著のスタイルがそうらしい。

 ハラルド・ブルームは現代アメリカの最重要の作家としてフィリプ・ロス、トマス・ピンチョン、ドン・デリロとならべて、このコーマク・マカーシを挙げる。批評家にはフォークナと比べる人が多いらしい。

 彼がこれを書いたのは73歳のときだ。旺盛な創作力どころではない。恐ろしくなるくらいの筆だ。

 本小説はジャンルで言うと post-apocalyptic genre に属するか。

 舞台は「何年も前に、一見して地上の殆どの生命と文明とを破壊し去った、名前を伏せたある大変動に襲われた風景」である('a landscape blasted years before by an unnamed cataclysm that destroyed civilization and, seemingly, most life on earth')[Wikipedia, c. 2008]。

 構想のきっかけについては Wikipedia にはこうある。

McCarthy said that the inspiration for the book came during a 2003 visit to El Paso, Texas, with his young son. Imagining what the city might look like 50 to 100 years into the future, he pictured "fires on the hill" and thought about his son. He took some initial notes but did not return to the idea until a few years later, while in Ireland.

ここにいうアイルランドとは、ことによるとコナマラの風景が引き金では。或いは Burren (クレア県)か。

 たまたま、ぼくは米国のエル・パソにも、そしてアイルランドのコナマラにも行ったことがある。コナマラはある異星ものSF映画のロケに使われたほどの地で、この世のものと思えぬ風景がつづく。作者がまずエル・パソで最初の構想をいだき、のちにその100年後の姿を実景としてのコナマラでああこれだ、と思ったのは大いにあり得ることである。

 この大変動は 「大流星体と地球との衝突など」(impact event)であるとインタヴューで作者は示唆した(an interview with David Kushner in Rolling Stone)。

 フィクションであると自分に言い聞かせながら読み進めるが近未来としての予感がひたひたと迫る。

 文体と内容とは荒涼たるものだが一条の光が少年から発する。この光は恐らく時空を超えておりそのことを自身が意識せざるところがさらに光輝を増さしめる。


〔附記〕
 作者とアイルランドとの結びつきを考えていたら興味深い事実に遭遇しました。生まれたときの名はチャールズなのですが、のちに自分でコーマクと改名しました。伝説のアイルランド王コルマク(3世紀頃)の名をとったといわれます(別の説もありますが)。この王はフィン・マククィルの時代の王で、つまり、フィン物語群の時代の王ということになります。

 英Guardian紙に興味深い記事が出ました。この『ザ・ロード』を含む世界終末物の文学から学ぶヒント集です。

The Mayan apocalypse: survival tips from literature (19 December 2012)

それによれば、本書から得た要諦は

抗生物質を携行せよ>

です。他の作品については、記事をどうぞ。


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