ケルト学におけるドイツの学統を示す好著
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ベルンハルト・マイヤー、平島直一郎 (訳)『ケルト事典』(創元社、2001)
「ケルト」を冠した本は数多く出ている。
しかし、学問的に信頼するに足りる本を探すとなると、恐らく一苦労するだろう。なぜかといえば、ケルト学を構成するさまざまな領域の専門家や、それに大きく関わるアイルランド語やウェールズ語の専門家について、一般にはほとんど知られていないからだ。もちろん、たとえば、日本ケルト学会の学会誌に寄稿しているような人の名前を丹念に調べれば、その著者がその分野に関わる人かどうかは判る。
特に、(英米圏を含めて)あまり知られていないのは、ドイツにおける(あるいはドイツ語による)高水準のケルト学のうち、英訳されていないものだ。この内容を知っている人はほんとうに限られる。
けれども、いまなお、ドイツ語で書かれた古アイルランド語の文法書がその分野の第一の基本文献として使われている。もちろん、それはその書に英訳があることも大きいのだけれど、ともかく、そのことは、非常に高い水準の研究がドイツあるいはドイツ語圏にはある証にはなる。
ケルト学におけるドイツの学統を示す、ケルトの宗教と文化についての1994年の重要な著作 Bernhard Maier, Lexicon der keltischen Religion und Kultur, Stuttgart, Kröner が日本語で読めるのは大変幸せなことであると言わねばならない。訳者の平島直一郎さんはドイツのケルト学を研究している方である。
本事典は、内容の包括性に加え、アイルランド語やウェールズ語の正確な表記をめざした点で、類書とは違う格別の書である。おすすめします。
なお、本書は絶版中で古書市場で高値が附いている。復刊を切望する。次の英訳版が容易に入手できることを附言する。
Bernhard Maier, (Cyril Edwards, trans.) Dictionary of Celtic Religion and Culture (Boydell & Brewer, 1997)