ジョー・ヒーニーの本棚にあった歌集
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Eibhlín Bean Mhic Choisdealbha, Amhráin Mhuighe Seóla (CIC, 1990)
アイルランド語の歌集としては古典的なものなので、ジョー・ヒーニーの他界時に、彼の本棚にあったとしても不思議はない。
だけれども、彼のような歌い手が歌集を持っていたということがたいへん驚くべきことであるように思われる。
なぜか。彼はアイルランドのシャン・ノース歌唱(アイルランド語無伴奏歌唱)の歴史の中で不世出の名人で、その歌の伝統からすると、歌集など参照するようにはとても思えないからである。
基本的には口承の歌が唄われるシャン・ノース歌唱。
口伝えで教わり、口伝えで教える。そこには文字など介在する必要がない。もちろん、楽譜も必要ない。
シャン・ノース歌唱のレパートリーにされる歌は、作者が頭の中で作り、唄われる詩として作る。詩の韻律は「歌の韻律」と呼ばれるものが使われる。
そのような歌が文字に書きとめられることがあるとすれば、それは記録のためである。
この歌集はコステロ夫人がまさにその記録と収集を行ったものである。アイルランド西部の歌を、歌い手から聴きとって、曲も添えてまとめてある。英語の散文訳が附いている歌もある。アイルランド語文化の外にいる人にとっては、まことにありがたい歌集である。
だけど、彼はアイルランド語文化の中心も中心にいた人である。その彼がなぜ。謎である。