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極めて読みやすいアイルランド妖精総説


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Carolyn White, A History of Irish Fairies (1976; Carroll & Graf, 2005)


 註や典拠が皆無ながら説得力あり。いくつかは有名な典拠が想像はできるが。

 アイルランドの妖精に関する本は夥しい数が出版されている。が、知る限りでは、最もコアになるアイルランド語の原資料を公刊したまとまった本は一冊も出ていない。その膨大な資料はいまだにカードに手書きで記された状態で保管され、いつの日か、印刷される日を待っている。そういうものを見ようと思えば、たとえばユニヴァーシティ・コレジ・ダブリン(UCD)の民俗学部の資料庫に入って、厳重な手続きを経て見せてもらうしかない。

 一般には、アイルランドの妖精譚は19世紀の妖精伝承を収集した本をアレンジしたイェーツの英語の本などにより知られているが、イェーツはアイルランド語ができなかったために、そういう原伝承に当たる力はなかった。

 そういう本にしか触れたことがない人には、妖精の伝承は19世紀くらいまでの迷信的な事柄に属する、要するに昔のたわごとにしか見えないと思うが、実は妖精伝承の収集は21世紀に入っても続けられている。

 本書は、典拠こそ書いていないものの、類書にあまり見られない、かなり珍しいことが多く書かれており、妖精本を多く読んだ人でも衝撃を受けるのではないかと思う。ことによると、アイルランド語の原資料に当たったのかもしれない。

 一つだけ例を挙げると、「妖精の食べ物」(Fairy Food)の項に、次のような記述がある。妖精の食べ物を摂った人の多くは人間界に帰ってこない旨を記したあとに、中には帰ってくる者があったとしてこう書く。

Yet many return, for it is from them that we acquire our fairy tales. The secret lies in the salt: fairies never eat it [. . .].

ここには二つの驚くべきことが書いてある。一つには、帰還する者がいたからこそ、妖精譚を収集できたこと、いま一つは、妖精は決して塩をたべないことである。

 著者は比較文学で博士号を有しフランスで勉強しヨーロッパを広く旅したこと以外不明。もっとこの人の著作を読みたいが。なお、本書は総括的に妖精に関する話をコンパクトに収めたもので、わずか123ページしかないが、中身は充実している。


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