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『遠野物語remix』の続巻。『遠野物語』の附録にあたるものだけれども見逃せない


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柳田國男京極夏彦遠野物語拾遺retold』(KADOKAWA/角川学芸出版、2014)

 読書界に新鮮な衝撃を与えた『遠野物語remix』(2013)から一年、『遠野物語』の附録にあたる『遠野物語拾遺』が再び京極夏彦の語り直しにより世に出ることになった。原典は『遠野物語増補版』に附録として収録されているものである。

 299の説話が集められている。「本編」にあたる『遠野物語』が柳田本人が編纂し書いたものであるのに対し、本書は佐々木喜善(『遠野物語』を語った「話者」)に頼んで送ってもらった追加的材料のうち、『遠野物語』と重複しない話を鈴木棠三に一任してまとめてもらったもの。

 以上の経緯からも察せられるように、『遠野物語』と較べればインパクトに少々欠ける。ただし、民俗学や民間伝承の貴重な素材集と考えれば、宝物は山ほど埋もれている。

 採話されたのが明治から昭和に至る時期であり昔の話だと考えがちだが、実はそうでもないだろう。山人に類似する話は、例えば四国山中などでも近年に記録されている。

 山といえば、本書でたびたび登場する六角牛山岩手県遠野市釜石市との境界に位置する山、標高1,294m)の存在感は際立っている。中でも「百三十五」(「宵月」)という話が非常に興味深い。いわく、青笹村大字中沢にいた新蔵という人の祖先の美しい娘が前触れなしに消える。家出か、神隠しであると謂われた。死んだものと諦めたが、三年程過ぎたある日、娘はひょっこり戻って来る。今まで何処にいたのかと問うと、つぎのように語ったという。

「私は 、六角牛山の主の嫁に取られてしまった 。でも 、あまりに家が恋しいので 、夫に話して暇を貰い 、こうして帰って来た 。でも 、やがてまた山に戻らなければならない 。私は夫から何ごとでも自由になる宝物を貰っているから 、今にこの家を富貴にしてやろうと思う 」

評者などはこの話からアイルランドの「妖精にさらわれた妻」の話を想いだしてしまう。興味はつきない。