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科学者の珠玉の言葉を高野文子の漫画で


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 高野文子の漫画『ドミトリーともきんす』(中央公論新社、2014)は読書案内である。自然科学の本のことを紹介する役目を漫画で果たそうとした本。

「ドミトリーともきんす」という名の二階建ての家。とも子と娘のきん子とがまかなう小さな下宿屋である。二階に科学の勉強をする学生が四人住んでいる。朝永振一郎牧野富太郎中谷宇吉郎湯川秀樹

 この架空の下宿屋を舞台に、四人の科学者の残した言葉を、いま読み直す。「わたしたちはそこから何を知り、気づき、立ち止まるのだろうか。」と作者は問う。その成果は不思議な余韻をうみだす漫画となった。

 たとえば、朝永振一郎の言葉。「ふしぎだと思うこと これが科学の芽です」「よく観察してたしかめ そして考えること これが科学の茎です」「そうして最後になぞがとける これが科学の花です」

 たとえば、湯川秀樹の言葉。「自然は曲線を創り人間は直線を創る。」「自然の創造物である人間の肉体もまた複雑微妙な曲線から構成されている。しかし人間の精神はかえって自然の奥深く探求することによって、その曲線的な外貌の中に潜む直線的な骨格を発見した。」

 軍部により機密事項にされていた昭和新山(1944年から45年にかけてできた)を実際に観測した中谷宇吉郎の言葉。「天地創造の話というと、たいへん大袈裟なことになるが、昭和十九年の夏から、北海道の片隅で、そういう異変が現実に起きているのである。」「今眼の前に見るこの山の姿は、まことに美と力との象徴である。その美は人界にない妖しい光につつまれている。その力にも闘争や苦悩の色が微塵もなく、それはただ純粋なる力の顕現である。」

 高野文子は寡作の作家である。漫画家として35年のキャリアがあるが、作品はわずかに七つ。本作が12年ぶりの新刊である。自然科学のことを静かに伝えるために、「絵を、気持ちを込めずに描くけいこ」をし、自分の気持ちを「見えないところに仕舞い」「自分のことから離れ」た描き方をしようとしたと「あとがき」にある。その結果、「乾いた涼しい風」が吹いてくるような作品が生まれた。

 科学者のことが大好きになりそうな本である。


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