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Blighting the countryside? <コメント> <付記>


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ゴールウェーのある新聞に載った記事(Galway Advertiser、4月21日付)だけれど、たぶん日本ではどの新聞も紹介せず目にも触れないと思う。その記事の中に、先日、アイルランド大統領に同行して日本でエクシビションを行ったダンサー(や音楽家)たちの言及がある。その人たちの出自、それを支える社会経済的な状況、それが現代のアイルランドでいかに軋轢を生んでいるかという問題が語られている。知られざる、また語られざるアイルランドの一断面である。おそらく、表には出したくない問題であろう。

この記事から、冒頭部分と、音楽家の言及の部分とを引用するので、興味のある人は読んでみてください。まず、冒頭。

I am blighting the countryside. I was born and reared in a small "one off" house; I now live in a slightly bigger "one off" house. There are hundred's of thousands of us all over rural Ireland, all over the west and throughout county Galway. We are townland people or the "baile fearainne" as it is known in Irish. We are blighters - our "one off" houses and our townland mentality has scarred rural Ireland. Well, that's the view put forward by some loud environmental commentators again in the past week.

続いて、音楽家の言及部分(太字)。

If you are looking at the economics of it all, is it not good that more people are using the electricity and the phones in rural Ireland? That infrastructure has been there for a long time and, presumably, the more people who use it the more cost effective it becomes?


Anyhow, these discussions of this nature could lead us into the alley of knowing the cost of everything and the value of nothing.


Recently my neighbours from a few townlands away, the Cunninghams, were invited to go along with the President McAleese on her trip to Japan and Korea to display the exuberance of traditional Irish dancing in these countries.


They are the sons and daughters of a "one off" townland house. Aren't Seán Keane and Dolores Keane the son and daughters of "one off" townlands? What about our great traditional sean-nós singers - are they not the sons and daughters of "one of" houses? Have all of these people, and many more, not sprung from traditions and culture that was forged and fashioned in the townlands of rural Ireland? But what about the economics of it all?


Well, we are all well aware now of the capabilities of Irish people in the entertainment and music field; it is a massive industry and provides a showcase for this country in many ways. Where did the traditions of Riverdance come from? OK, so one could overdo this argument, but one should not ignore it either.

ここに出てくるカニングハム一家というのは、先日の愛知万博愛・地球博)のアイルランド・ナショナル・デーでダンスを披露したチームにいたのではないだろうか。ぼくは行けなかったけれど。コメントをいただいた熊谷さん(ありがとうございます)によると、アイリーン(アシュリーン)とブライアンの姉弟ということです。ブライアン・カニングハムといえば、先日来日した同じくシャン・ノース・ダンスのショーサヴ・オ・ニャハタンにブライアンのことを話したんですが、一言もコメントしなかったのは、あれは一体どういうことなのだろうと、今にして思います。カニングハム一家のうち五人の名前については、ゴールウェー県西部の Toombeola の地元の出来事を伝える ニューズ に、Brian, Irene, Aisling, Michael, Lorraine とあり、全員ダンサーだということです(News from Connemara.net, Ireland、2002年12月)。


いわば、現代アイルランドにおける光と影のような話である。EU の議長国もつとめ、ヨーロッパの一等国として胸を張っているアイルランドエコノミストの調査で2005年にもっとも暮らしたい国に選ばれたアイルランド。裕福になって、不動産価格が高騰しているアイルランド


そんなアイルランドを誇る人たちにとっては、townland に "one off" house を建てて勝手に暮らしている人たちは恥部に映るのかもしれない。*1 そういう無法者たちの生活を都市生活者の税金が支えているのに、彼らのやることといえば田園風景を汚す(blighting the countryside)ことだけだと。


〔付記:この blight という言葉について付言すると、名詞で使うと、胴枯れ病のことで、アイルランド史の文脈では、誰でもあの大飢餓(An Gorta Mór [The Great Hunger]、俗にいう Potato Famine ジャガイモ飢饉)のことを想起する。ジャガイモの不作をもたらしたのが、この blight である。その連想からいうと、人々が思い出したくない、思い浮かべたくもない、できれば触れたくない悪夢のような事柄を指すのにはこれ以上の言葉はない。その言葉を使って、(本来なら)美しいアイルランドの田園風景を汚しているのが彼らだと環境保護論者から罵られるというのである。彼らの無念いかばかりや。俺たちは疫病神だからいないほうがいいとでもいうのかという心の叫びが聞こえてくる。なお、さらに付言すると、一般にアイルランド語はこの大飢餓の記憶と結びつき、一部の人にとっては忌まわしいものと捉えられる。アイルランド語話者の地域が集中的に打撃を受けたからである。けれども、アイルランド語を除けば一体何のアイルランド文化か。〕


だが、ちょっと待ってもらいたいというのが、この記事の主旨である。考えさせられる。


世界に誇るアイルランド伝統文化を支えているのは実はこうした家々の出身者であるのに、現在の経済原理だけで切捨ててよいのかと、記事の著者(無署名)は語っている。重い言葉である。

*1:one[-]off は、ここでは「(長持ちしない、)その場限りの」くらいの意と取る。元は、一点だけ製作された製品や試作品のことを指した。つまり、百年も持つような家ではなく、安価な簡易住宅のことと考えられる。土地代も払わず、田舎の空き地に住めるだけの家をこしらえるというニュアンスだろう。なお、日本では「ワンオフ」は特注部品のことを指すようである。この語句についての考察が こちら にある。ここに書いた「長持ちしない」というのは、現実に住宅の質がそうである場合も多いかもしれないが、それよりも、住む人の意識として、永続的にそこに住むという発想で建てられていないというニュアンスを考えました。誤解を生みそうなので、そこは括弧に入れます。

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