今年中に30枚 (29) Siobhan Armstrong: Clairseach na hEireann
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- Siobhán Armstrong: Cláirseach na hÉireann - The Harp of Ireland (Maya MCD0401, 2004)
金属弦ハープ奏者シュワーン(シヴォーン)・アームストロング(Siobhán Armstrong)のアルバム 《クロールシャハ・ナ・ヘーラン》。2002年度のオ・リアダ杯を史上最年少で獲得した女性歌手ブリージ(ブリーヂ)・ニ・ウィルヒアラン(ウィルヒアラーン) Bríd Ní Mhaoilchiaráin の初録音4曲が含まれている。*1 2003年11月27日に、TV 朝日の「Deep Planet」という番組に出演した。
私は今年の初めから、本年中に必ずブリージの録音が出るだろうと予告していたが、やっと出た。たとえ、全20曲中の4曲であろうとも、アイルランド語のシャン・ノース歌唱に関心のある人は入手の価値がある。
本アルバムの珍しい中世ハープ、クロールシャハ(cláirseach)のことについてはハープの専門家に任せることにして、ここでは歌のことのみ語りたい。とはいえ、この14−15世紀のトリニティ・コレジのハープの復元楽器が奏でる妙なる音色は、いにしえのアイルランドの世界を髣髴させ、そのことは実はここでの歌の世界に密接に関連していることは指摘しておかねばならないだろう。ハープ専門の人もおそらく楽しめるだろうと思う。録音は2004年4月21−24日にキルケニー県の Castalia Hall で Johnny Hadden により行われた。
が、なんといっても、本ブログはアイルランド語シャン・ノース歌唱のために存在するブログである。めったにシャン・ノース歌唱の本物の録音をとりあげることはできない。リリース数が年に数点あるかどうかというくらい貴重なる慶事である。
とりあえず、ブリージ(ブリーヂ、ブリーヅ)・ニ・ウィルヒアランの歌っている曲目を挙げておこう。数字はトラック番号。
5. Seabhac na hÉirne
13. An Chúileann
19. Bonny Portmore
20. Seoithín Seó
まず、トラック5 「シャウク・ナ・ヘールニャ」 <Seabhac na hÉirne> (The Hawk of Lough Erne)。この歌の旋律を書いたのはカロランで、元になっているのはトラック4の <Port Atholl> というハープ曲(Ó Catháin 作)。カロランはしばしば曲だけでなくそれにつける歌詞も作ったとされている。この歌の場合もそうだろうか。この「タカ」とはこの愛の歌で歌われる男の愛称。この歌はハープ曲としてのハープによる録音はたくさんあるだろうけれど、歌の録音はひょっとすると初ではないか。
トラック13 「ア・フーリャン」 <An Chúileann> (The Fair Maiden) は英語の題 'Coolin' でも知られる。この歌も、器楽曲としてパイプスやフィドル等での録音は多いと思うが、歌の録音は珍しい。初めてかもしれない。
以上2曲はアイルランド語の歌。
トラック19 <Bonny Portmore> は英語の歌。オークの大樹の伐採を慨嘆するこの歌を誰がカヴァーしているかは こちら に詳しい。一般には Loreena McKennitt の歌でよく知られているかもしれない。
トラック20はアイルランド語の子守唄。やや珍しい旋律で歌われ、その歌声と金属弦ハープとが和する時、いにしえのアイルランド音楽の三目的の一つ(suantraí)が現前するような心地がする。*2
特にトラック5と13は珍しいレパートリーで、ブリージの歌はさすがというしかない。
ところで、よく CD パッケージを見ると、正面左端の部分が透明でそこに大文字でブリージ・ニ・ウィルヒアランの名前が書いてあり、驚く。いかにシュワーンがブリージに敬意を払っているかが分かる。あやうくソフトケースに移し変えるところだったが、これならこのケースのままにしておこう。
なお、このパッケージは非常に丁寧に作られており、解説も英独仏三ヶ国語によるしっかりしたものである。
本アルバムのことを最初に教えてくださった kopu さん に感謝。お元気ですか。