今年中に30枚 (28) VA: Biscantorat
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- VA: Biscantorat - Sound of the Spirit from Glenstal Abbey (Hummingbird HBCD0038, 2004)
歌うことは二度祈ることになる。そういう意味の 'biscantorat' という造語を冠した宗教歌のアルバム。*1 アイルランドはリムリック県のグレンスタル修道院(ベネディクト会)で、同修道院の聖歌隊とともにノーリーン・ニ・リーアン(Nó Ní Riain)やマリー・バーナデット・オコナー(Marie-Bernadette O'Connor)*2 が歌う。2003年9月19日録音。
伴奏として時折聞こえる素朴なオルガンのような音は、ノーリーンがよく弾く手押しハルモニウムだろう。これ以外にパイプ・オルガンも使われている。殆どは声だけで繰広げられ、歌はすべて祈りとして歌われている。誰か一人の声が際立つべきものでもなく、声は祈りのために捧げられている。
トラック12 <The Seven Rejoices of Mary> ではマリー・バーナデットが先唱者をつとめ、聖歌隊がコーラスをつける。アルバムには 'Traditional Irish numerical carol, collected in Waterford in 1901.' (〔アイルランドの〕ウォーターフォード県で1901年に採集されたアイルランドの伝統的 numerical carol)と注記してある。神学博士ノーリーンはこの歌について、かつて論文を書いている。この 'numerical carol' という術語はノーリーンがその論文で用いているもので、「数え上げながら歌うキャロル(祝歌)」の意である。聖母マリアの第一の喜び、第二の喜びと、七つを数え上げて言祝ぐ歌である。これとよく似たヴァーションが CD 《A Celtic Christmas》 (Saydisc CD-SDL 417, 1996)にも収められている。
音楽的には、ソロ歌唱、ユニゾン合唱、ハーモニー合唱といろいろあるが、私の耳にはトラック14 <The Beatitudes> (山上の垂訓で説かれた八福)のハーモニーがことのほか素晴らしく聞こえる。アルバム全体の音楽監督はノーリーンとポール・ナッシュ(ベネディクト会)が担当。
このアルバムはその性質上、特定のアーティストの作品と見ては不適当で、ある場である目的のために録音された匿名的性格の聖歌集と見るほうがよいのだろう。扱われる聖歌は、ちょうど今頃の待降節から聖霊降臨までをカヴァーし、典礼暦年の全般を通して聖霊の働きに導かれながら歌うという趣旨である。単なるクリスマス・アルバムではない。
純粋に宗教音楽集として聞いても、かなり聞きごたえがある。アイルランド音楽評論家アール・ヒッチナーによるやや辛口のアルバム評は こちら。
音楽以外に、語りも入っている。Anam Chara (Anam Cara)の著者としても知られるジョン・オドノヒュー(John O'Donohue)も語り手の一人である。歌だけでなく、語られた言葉も、一言一言、魂にしみわたるような声である。