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渡辺陽子の詩とヤコブの梯子


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 産経新聞12月12日付朝刊「朝の詩(うた)」欄に載った読者投稿の詩。

小春日和(母)
  栃木県小山市
  渡辺 陽子 58


畳おもてが
やわらいで


へこんだ座布団が
ふっくらとして


母さんが
光りのてすりを伝って
おりてきた日は
すぐわかる


(選者 新川和江

 この渡辺さんの詩を読むと、パトリック・ボカノウスキー(Patric Bokanowski)の1982年の映画「天使」(L'Ange)を想いだす。分かる人には分かると思うけれど、こればっかりは言葉で説明するのが困難。
 だけど、敢えてやってみると、つまり、天から光を通ってやって来るもの、それを感じ取る、あるいは感じられるように思えるときが人生の稀な瞬間に訪れるということ。
 私はボカノウスキーの全く科白のない1時間10分の映画を見終わったとき、完全に監督の伝えたかったメッセージを了解したと思った。つまり、そのメッセージとは言語化されざるものであったわけで、言語を介しては伝えようのないものを光と音とで伝えようとした映像作品であった。まことに稀有な35mmフィルム。
 少し違うかもしれないが、このような体験は古来あったようで、たとえば、「ヤコブの梯子」(アイルランド語では dréimire Iacóib という)という表現が創世記に出てくる。

創世記28章12節

Rinneadh taibhreamh dó: dréimire ina sheasamh ar an talamh agus a bharr ag sroicheadh neimhe, agus bhí aingil Dé suas agus anuas air. (アイルランド語訳聖書)

He dreamed: a ladder standing on the earth and its top reaching heaven, and the angels of God ascending and descending on it. (欽定訳聖書

すると、彼〔ヤコブ〕は夢を見た。先端が天まで達する階段が地に向かって伸びており、しかも、神の御使いたちがそれを上ったり下りたりしていた。 (新共同訳聖書)

 この箇所のヘブライ語原典を見ると、 MLS ス(ル)ラーム(SLM)という語が使われており、梯子とも階段とも訳される。後者から、ジッグラト(段階式のピラミッド形の寺院)のような構造物を示唆する者もある。語根(サーラル)の基本義は「盛り上げる」「持ち上げる」らしい。すると、下から上へという方向に、地にいるものには見えるということだろう。いずれにせよ、何らかの地と天、天と地とをつなぐものを介して天的な存在が往来するということがここでは表されている。

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