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アイルランドは QOL 大国


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 11月17日付で、EIU (Economist Intelligence Unit、親会社がエコノミスト誌を発行)は、世界で住むのに一番いい国はアイルランドであるとの調査結果を発表した(写真 credit: http://www.corkkerry.ie/)。富、自由、安定性、安全性といった指標について、「生活満足度調査」(life-satisfaction surveys)を世界111カ国について行った結果、アイルランドは最高値をたたき出した。つまり、生活の質(QOL: Quality of Life)で世界ナンバーワンだという結論になったのである。
 その際、考慮に入れた要素は、収入、健康、自由、失業、家庭生活、気候、政治的安定性、治安、男女平等、家庭及び共同体の生活等である。
 調査を行った EIU の Dan O'Brien さんはこう語る(New Zealand Herald 11月19日付)。

Ireland is now one of the richest countries in the world by any measure. It enjoys social calm combined with civil and political liberties, which, surveys show, are not bettered anywhere.

Thousands of returning emigrants and arriving immigrants who vote with their feet know there are few better places in the world to live.

 アイルランドの不利な点は三分野ある。公共医療、男女不平等、気候の三つである。男女の平等に関してはヨーロッパの水準以下であるし、医療分野は政治的課題になっている。この三つのうち、気候を除けば改善の余地はある。*1
 アイルランドが今日のような評価を築き上げたのは、貧しい過去を消去ることなく豊かな現在を受入れたことによる。つまり、伝統を維持しつつ現代の繁栄を享受するという理想的なバランスがある。O'Brien さんは語る。

The key to life satisfaction is to have the best of both worlds, the good of the modern and the best of tradition. It is true that there is more family breakdown, that divorce is on the rise and civic involvement has declined. These woes certainly afflict Ireland but - and this is crucial - they do so less than in other developed countries.

 現代化に伴う痛みの一つに、古きよき伝統の消失がある。11月末に迫ったビューリーズ・カフェ閉店などはその典型例である(本ブログ 11月10日付 参照)。
 交通渋滞を緩和するための、特にダブリン周辺の道路建設は、経済発展に伴う副作用である。
 暴力の連鎖を生み出した北アイルランド問題の存在にもかかわらず、アイルランド共和国の内政は近年驚くほど安定していると EIU は評価している。
 かつて、経済発展について、「上げ潮はすべての舟を持ち上げる」("a rising tide lifts all boats")と言った政治家がいたそうであるが、どうやらその通りになっているようである。
 EIU 調査による上位十傑は次の通り。

  1. Ireland
  2. Switzerland
  3. Norway
  4. Luxembourg
  5. Sweden
  6. Australia
  7. Iceland
  8. Italy
  9. Denmark
  10. Spain

 なお、読売新聞11月19日付によると、米国13位、日本17位、仏25位、独26位、英29位、シナ60位、ロシア104位、最下位ジンバブエ111位などとなっている。北朝鮮は当然リスト外。なお、韓国は30位のようである(英 Guardian 紙による)。
 さて、この結果をどう受止めるか。何より、当のアイルランド人はどう受止めているのだろうか。
 確かに、パブから紫煙は消え、経済的には豊かになった。しかし、その豊かさはゲールタハト(アイルランド語使用地域)にはどれほど及んでいるのだろうか。私が昨年から今年の冬にかけて 訪問した経験 では、都市部とは別の国のように思われた。これは非難する意味で言っているのではない。私はむしろ、そういうアイルランド内のいわば「異国」のほうが好きなのである。こういう「異国」が存在することが、いわばアイルランドの西の結界を守っているのではないか。

*1:ひょっとすると、この雨の多い気候があるおかげで、豊かさがより豊かに享受できるのではないかという気がする。つまり、常夏の楽園ではないが故に、つねに暗い惨めさを味わいながら、豊かさが心からありがたく思える。珍しい苦楽共存社会。