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Tigh Mhíchíl

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all my eye and Betty Martin! (人名成句その3)


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 これまで、'By George!' (「本当に」「全く」)と 'Great Scott!' (「こいつは驚いた」「おやまあ」「大変だ!」)という二つの人名を用いた成句を見てきましたが、もう一つ、'all my eye and Betty Martin!' (「とんでもない」「ばっかばかしい!」)という不思議な成句を見てみましょう。このベティー・マーティンは 200 歳を超えた正体不明の女性と辞書には書いてあるのですが、本当のところはどうなんでしょう。

 大体、こういう人名を用いた感嘆表現というのは、明らかに神名称呼を避けた婉曲表現と分かる場合などを除けば、その歴史的由来がすぐには了解されないところが却って面白いような気もします。

 例によって、World Wide Words を参考にします。

 同サイトの Michael Quinion さんによると、この表現は英語でもっとも訳のわからない句の一つだそうです。一般にはラテン語の祈りの文句から来たという説が唱えられています。

 意味としては 'something is total and complete nonsense' という強い不信感を表す表現です。日本語でこれに相当する表現はあるのでしょうか。マーク・ピーターセンさんなら何か思いついているかもしれませんね。大阪弁なら「んな、アホな」くらいでしょうか。携帯世代なら「あり得へん」というところでしょうか。標準語なら「バカな」「馬鹿げている」でしょうか。いずれにせよ、人名を用いてこういう気持ちを表す日本語の表現はちょっとないような気がします。

 さて、'all my eye and Betty Martin!' ですが、非常に調子のよい言葉で、韻律的に言えば、強弱格(trochee)になっています。

 'all my eye' だけでも「ばかな」「とんでもない」の意味になります。これを短くした 'my eye' というのはウィリアム・フォークナーも使っています。

 ラテン語のお祈りという説(1823年)を見ましょう。

Ora pro mihi, beate Martine
("Pray for me, blessed Martin")

 この聖人は4世紀の聖マルティヌス(フランスのトゥールの司教であった)のことと言われています。ともあれ、殆どの学者がこの説は否定しています。この祈り自体がラテン典礼にないことと、この文はラテン語として文法的におかしいからです。*1

 ほかにも諸説がありますが、どれも決定打とは言えません。ベティー・マーティンという女性が実在したのかどうかということは依然として謎です。結局、やはり、聖マルティヌスへの呼びかけの言葉 'beate Martine' が崩れたのだろうと Michael Quinion さんはしています。これはコペンハーゲンの王立図書館で 'Ora pro nobis beate Martine ("Pray for us, blessed Martin")' と書かれた1500年頃の時祷書を見たことがあるからということです。確かに、中世以降、聖マルティヌスはポピュラーな聖人であり、執成しの祈りを捧げることはよくあったに違いありません。となると、人名成句の場合、人名といっても実は殆どの場合は聖人などの名前に由来し、一般人の名前が使われたものは中々ないのでしょうね。ベティとくれば一般人に見えるのも無理はありません。

*1:pro は奪格をとるのに、mihi は与格

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