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今年中に30枚 (22) Patti Moran McCoy: Jesus In Paris


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 オクラホマ出身のピアニスト、パティ・モーラン・マッコイ(Patti Moran McCoy)の2002年のアルバム。

 Patti Moran McCoy: 《Jesus In Paris》
  (Brio BRIO2113, 2002)

 パティはピアニストとしては今聞けばゴスペルの香りがあふれ、ジャズもうまい。が、そもそもは12歳で交響楽団と共演しジュリアードの教授に個人レッスンを受けていたクラシック・ピアニストだった。その後、シンシナティ市でオスカー・ピータースンを聞いて以来、シカゴのジャズ・シーンにのめりこんだ。デューク・エリントンスコット・ラファロとも録音するくらいの腕前だったのだが、ジャズ音楽界の速すぎる変化が合わずドロップ・アウト。オレゴンに移って神を見出す。

 そのような経歴を考え合わせると、本アルバムにおけるパティの音楽はよく分かる。これほど確かなタッチのゴスペル・ピアノというのはちょっと珍しい。非常にソウルフルな感覚にあふれ、ゲストに迎えた歌手たちもよく、アルバムとして堪能できる。最後のトラック以外は全曲自作というのも、パティの非凡な才能を示す。

 演奏だけのトラックもいくつか収められているが、いずれも秀逸。クラシカルな演奏が聞けるトラック7もいい。このトラック <Song for Claire> は夫 Michael が書いた詩(ライナーノーツに掲載されている)にインスピレーションを受けた曲のようだ。

 作曲家としてもピアニストとしても、これほどのクラシカル/ジャズ/ゴスペル・アーティストが第一線に出ずに埋もれているというのは信じられない。しかし、これがパティが選び取った道なのだ。夫と五人の子供に囲まれ主を賛美する道だ。

 最後のトラック、シューベルトの <Ave Maria> は Britt String Sextet との共演。クラシカルな端正さが基調となってはいるが、ところどころでジャズ・ピアニストならではの音のうねりが出る。ちょうど、キース・ジャレットがやるような、中指から小指にかけての、あのフレーズだ。シャン・ノース唱法でいうとターン(turn)に相当する。この曲でのパティのこのこぶしのような奏法はたまらない。

 それらすべてのもの、つまりクラシックとジャズとゴスペルに根ざした音楽家としてパティがもつすべてのわざが、神への賛美に捧げられていることが分かる。まことに稀有なアルバム。