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今年中に30枚 (20) Reverend Dwayne R. Mason: Glory! Glory!


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 シカゴのゴスペル・ピアノの新星ドウェーン・メースンの CD。シカゴのブルーズ・ピアノの専門レーベル Sirens からのリリース。

 Reverend Dwayne R. Mason: 《Glory! Glory!》
  (Sirens SR-5007, 2003)

 基本的にはメースンのピアノにケンドリック・M・ジャクスンのドラムズの編成。5曲で女性ヴォーカルのシドニ・エヴァンズが加わる。ジャクスンもエヴァンズもシカゴの音楽家。

 Sirens レーベルの特徴はともかくピアノの音が(他のブルーズの録音に比べて)よいことで、ここでもピアノ(Baldwin SD-10 Concert Grand)の音がデジタル録音でうまく捉えられている。ピアニストが聞けばまあ満足できるレベル。しかし、もっといい音で録れるんじゃないかとも思う。

 メースンのピアノ・スタイルは、たとえばトラック6に聞かれるように、メロディーの合間のコード進行を支える右手のコードのつかみかたと、それに呼応する左手のベース音とが醸しだす絶妙のバウンス感が一つの特徴だ。ちょうど、教会で聖歌隊の大柄の黒人が左右に肩をゆすらす、あの感じのリズムだ。

 教会といえば、1961年生まれのメースンはシカゴの Body Soul Ministries の創設者であり、そこで牧師をつとめている。彼は自分の職業を表す三つの「M」を誇りにしている。licenced minister (有資格の聖職者)、mortician (葬儀屋)、musician (音楽家)の三つだ。

 メースン師はピアノの教育も受けてはいるが、教師から習ったものは理論だけで、ゴスペル・ピアノの奏法そのものは「天から」(from on high)やってきたとみずから記している。そんな感じは彼のピアノ全体から漂う。体の中からゴスペル・ピアノが溢れてくると言えばよいか。そのあたりを述べる自伝的な記述はライナー・ノーツの白眉である。

 このアルバムは悪くないが、次回はドラムズやヴォーカルを入れるのは数曲に限定し、ピアノの音そのものをもっと前面に出してほしい。もっと深く、もっと広く、この音に浸りたい。

 メースン師がゴスペル音楽の解釈のうえでインスピレーションを受けたのは、Reverend James Cleveland、Edwin and Walter Hawkins、Elbertina "Twinkie" Clark らだという。シカゴのゴスペル・ピアノに関心のある人には本アルバムは聞き逃せない一枚だろう。特に「重たい」音が好きな人には。