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起源に関する Quinn 説(1)


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 アイルランドシャン・ノース歌唱の起源に関する推論は大別して二つある。以下、ヴァレリの The Companion to Irish Traditional Music に基づいて考える。

 一つは Seán Ó Tuama のフランス起源説。この説の場合、歌のジャンルにより多少違いがあるけれど、大体13-14世紀に、英語を経由せず、直接フランス語(+プロヴァンス語)の(テーマ)素材がノルマン期のアイルランドに入ってきたということになる。

 この説については今はおいておいて、もう一つの Bob Quinn の説をちょっと見てみたい。彼の説のキーワードは Atlantean*1 で、アイルランドの文化音楽言語をケルトというような狭い範囲の説明に押込めず広く見ようというものである。

 彼の議論の出発点はコナマラのシャン・ノース歌唱で、大西洋岸に共通する海洋文化を巨石時代から19世紀なかばまでたどろうとする。

 この説が依拠する強力な例の一つは、アイルランド伝統音楽のスタイルによく似たスペイン音楽と北アフリカ音楽である。クィンの説のこの部分はショーン・オ・リアダや Charles Acton*2 も引用するほど興味を示したという。(つづく)

*1:文字通りには 「Atlas の」「Atlantis の」の意だが、Atlantic 「大西洋の」と関連づけ、広く大西洋文化圏を指して使っているようである。一般にはこれは世界の文化圏〔地中海文化圏、遊牧文化圏など〕の一つとは認められていない

*2:1914年、英国ブリストル生まれの音楽評論家、Irish Times 紙で音楽批評を30年間担当し、同時期、Royal Irish Academy of Music 総裁もつとめた。1999年没