Tigh Mhíchíl

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Sliabh na mBan


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 この歌は Déise Gaeltacht の 'big' song として著名である。この地域はウォーターフォード県からティペレアリ県にかけての一帯で、伝統的に歌の宝庫として知られる。メアリ・オハーラは第一連(ヴァーションによっては第二連)と最終連(ヴァーションによっては最後から二つ目の連に当たる)とを歌っている。

 題名の <Sliabh na mBan> (シュリアヴ・ナ・マン)というのはティペレアリ県側の山の名前である。Slievenamon と綴られることもある。場所はウォーターフォード県とティペレアリ県とキルケニー県の県境付近で、クロンメル(Clonmel)のすぐ北。標高719mの山である。この山に1798年蜂起の際、反乱軍(United Irishmen、アイルランド人連盟)が集結した(7月23日)。

 歌詞はコーク県生まれの詩人 Mícheál Óg Ó Longáin (1766-1837)の作といわれるが、ヴァーションにより連の順序その他に異同がある。

 非常に美しいエアを備えたこの歌の録音を少し挙げる。Labhrás Ó Cadhla の 《Amhráin ó Shliabh gCua》 のトラック15はかなり古い録音で、この地方の伝統をうかがわせる。アイルランド伝統音楽のライヴ盤として屈指の名盤 《Cois Mara Thoir sa Rinn》 のトラック15では Eibhlís Tóibín が歌っている。

 最近では、ケリー県の宝 Brendan Begley が 《It Could Be a Good Night Yet! Oíche go Maidean》 (2002) ですばらしい歌唱を聞かせている。第一連の途中からストリング・シンセサイザー(?)が加わるのを除けば非の打ちどころがない。四連を歌っていて、その第四連にはフランスからの援軍の期待が歌われているが、その平和への夢は北アイルランドの政治家のなかに今もあるという。同連の歌詞に "Bheadh mo chroí chomh héadrom le lon ar sceach" (私の心は、イバラの上のクロウタドリのように軽くなるだろう)とあり、それについて、「心はそれ以上には軽くなりっこないと思う!」と説明してあるのが可笑しい。七連あるうちの三連は省略したとのこと。

 何といっても、この地方(Na Déise)の歌唱伝統を代表する一人である Áine Uí Cheallaigh のヴァーションがもっとも伝統に近い歌唱だろう。名盤として知られる V. A.: 《The Croppy's Complaint》 (Craft CRCD03) に収録されている。全七連を歌っており、この歌の伝承に関心ある人は必聴。Nioclás Toibín の録音もどこかにあると思うけれど、手許にいま見当たらない。ともかく、現存するなかでナ・デーシャの伝統を最もよく伝えるのはこのオーニャ・イ・ハリーのヴァーションといえる。

 曲が美しいからだろう、純さんの 愛蘭事始 によるとエアーやホーンパイプなどの器楽曲としても演奏されるらしい。録音の情報は こちらに。