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今年中に30枚 (19) Ray Charles: Genius + Soul = Jazz/My Kind of Jazz


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 レイ・チャールズがジャズに取組んだ1961年のアルバムと1970年のアルバムとを1枚に収めた CD。レイの長いキャリアの中でインストルメンタル・アルバムはこの二つだけである。

 Ray Charles: 《Genius + Soul = Jazz/My Kind of Jazz》
  (Rhino R2 72814, 1961/1970; 1997)

 まずは、名盤として知られる 《Genius + Soul = Jazz》。Quincy Jones と Ralph Burns 編曲のビッグバンドに載せてレイがハモンド・オルガンを弾きまくるアルバム。

 レイはハモンド B-3 を1958年以来録音にも使っており、この61年の時点ではある程度経験を積んでいる。が、音色の変化でダイナミクスを附けるなどのことはあまりやっていないように聞こえる。フレーズが時々ワンパタンになることもある。ピアノのフレーズではなくて、オルガンならではの、オルガンでこそ引立つようなフレーズの開発はまだあまり出来ていない印象を受ける。
 パーカッシヴなチャッチャッというようなプレイはそれなりによいが、息の長いフレーズを組立てるとなるとある程度熟成させる必要がある。転がるようなフレーズを弾いた場合、ピアノではニュー・オーリンズ的な独特のどろっとしたサウンドになるところがオルガンだと単に混濁しただけのサウンドに聞こえてしまうから、アーティキュレーション*1は戦略が必要である。

 このアルバムでたぶん一番有名なのはビルボードの R & B チャートで一位になった <One Mint Julep> (クィンシー・ジョーンズ編曲)だろう。ミントジューレップというのは、「バーボンウイスキーに砂糖・はっかの葉などを加えたカクテル」(リーダーズ英和)というものらしいが、いかにもきりっとした飲み物だろうか。曲中のブレイクで入るバンドメンバーの掛け声は非常におもしろい。もとは The Clovers の1952年の R & B ヒット曲。書いたのが元タップ・ダンサーの Rudy Toombs。体がうずうずしてくるような曲である。この曲はクィンシーが原曲とは相当違うリズムにアレンジしているそうで、結果は成功している。

 特筆すべきなのはレイ作曲の <Mister C> だ。C は Charles のことだろう。この曲でのラルフ・バーンズの編曲はゴージャスなバンド・サウンドを引出しており、このバンドの部分だけでも相当にいい。それに載って、レイのオルガン、ビリー・ミッチェルのテナー・サクソフォーン、フィリップ・ギルボーのトランペット、アービー・グリーンのトロンボーンとソロが続き、最後にもう一度レイのオルガン・ソロがある。

 本アルバムのビッグ・バンドは、収録曲の半分以上で、カウント・ベーシー・バンドそのものである。つまり、ベーシーのピアノの代わりにチャールズのオルガンがフィーチャーされるという形なのだ。これ以上望めないくらいの環境である。ベーシー・バンドは6曲で演奏している。あとの曲はスタジオ・メンの寄せ集めのバンド。寄せ集めといっても、クラーク・テリーロイ・ヘインズなど錚々たる面々である。

 ところで、クィンシー・ジョーンズはシアトル時代からのレイの古い友人である。クィンシーの語るところによると、ホーン群の編曲とヴォイシングの仕方を彼はレイから教わったという。

 ラルフ・バーンズはレイのお気に入りの編曲家で、(他アルバムでは)ビッグ・バンドや弦のアレンジはすべて彼が担当している。<Georgia on My Mind> のアレンジも彼である。

 このアルバムを今日聞くと別に変わったサウンドのようには聞こえないが、当時としては革命的だった。プロデューサーのクリード・テイラーはこのフォーマット、つまりモダンな和声のホーンにソウルフルなオルガンを即興的に挿入するという形を一年後にはジミー・スミスとオリヴァー・ネルスン・ビッグ・バンドの組合せで応用することになる。


 さてつぎは、《My Kind of Jazz》 のほう。このアルバムについては正直コメントすべきことがあまりない。ビッグバンド+レイ(ピアノ、ヴォーカル)のスタイルで、ここではオルガンでなく全篇ピアノなのだが、どこにレイがいるのという感じの曲が多く、レイの存在感は希薄。かろうじて、<Booty Butt>(レイの曲) と <Sidewinder> でピアノが聞こえるくらい。他の曲でも少し聞こえることはあるが、あまり前に出る音ではない。全体に、演奏は別に悪いわけではない。が、ソロに特別光るものがあるというわけでもない。

 このアルバムは編曲者のクレジットがない。あるいはレイかもしれないが不詳。レイ自身のレーベル Tangerine からリリースされたものだが、アルバムとしての狙いがよく分からない。この当時レイはどういう状況に置かれていたのだろうか。

*1:フレーズの息遣いを明瞭に歯切れよく構成し表現すること

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