Tigh Mhíchíl

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Christy Moore


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 クリスティ・ムア(1945- )が伝統を深く知りながら個を感じさせる歌いかたをするのはなぜかを考えている。
 クリスティにおける伝統と個との関係はまるでディランのようだ。もし、ディランのようだとすると、伝統にとことん深くふれて、ある時点で間合いを見切ったとしか考えられない。つまり、完全に懐にいったん入ってしまったので、今度は安心して自分の歌を展開できるようになったのではないか。

 彼を伝統とつないでいるものは実はバウロンではないか。
 ギターを弾きながら歌うイメジが強くて、ゆえに、今日風のシンガー・ソングライターのように見えてしまうが、それは見かけだけのことである。
 普通のシンガー・ソングライターとの決定的な違いは、クリスティは全くギター・ワークにこだわらないことである。彼がフィンガー・ピッキングをするなどということは考えられない。かといって、ポール・ブレーディのようにリズム・ギターに凝るということも全くない。
 そう、彼はただコードを鳴らすのみである。しかし、そこに秘密がある。彼はほぼ全神経を歌に集中させたいのだ。だから、必要最低限のコードの響きさえすれば、あとは歌を前に進めるビートがあればよい。ギター・ワークに凝るなどという暇はないのだ。
 実はこのビートが肝心である。バウロンのようにギターが弾ければ、それで充分なのだ。バウロンを叩きながらなら、どんなポジションを押さえようかなどと気にする必要はなく、ほぼ歌に専念できる。
 クリスティはバウロンに毛の生えた程度にギターが弾ければそれで満足なのだ。

 忘れてならないのは、クリスティのバウロンは凄いということである。めったに見せないけれど。