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今年中に30枚 (12) Seoltai Seidte


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 アイルランド伝統音楽ファンなら一家に一枚クラスのアルバム。Gael-Linn レーベルの78回転レコード20枚(1957-61)をぎっしり収め、解説もばっちりの二枚組アルバム。時代を反映して、全部ソロ。これがアイルランド伝統音楽本来の姿。つまり、独唱か、器楽独奏(フィドル、フルート、アコーディオン、イラン・パイプス)。今から 40-50年前のアイルランド音楽の雰囲気が手に取るように分かる(ような気がする)。

 V. A.: Seoltaí Séidte (Gael-Linn CEFCD 184, 2004)

 聴いてみて驚くほど音がよい。よほどマスター・テープ(?)の保存状態がよいのだろう。ノイズはまったく聞こえないように処理されている。SP は二三曲の詰合せだから、駄作はまったく含まれていない。どの曲もよい。

 アイルランド音楽史で名前のみで知っていた伝説の歌い手、Aodh Ó Duibheannaigh (Hiúdaí Phadaí Hiúdaí, 1914-84) が2曲はいっているのが、ぼくには最大の収穫。こんな声だったのか。シャン・ノース歌唱で北の伝統を代表する人である。

 それから、もう一人気になったのが、フィドルの Sean McLaughlin (1925-88) で、アントリム県 Armoy 出身。それが、どうにもぼくの耳にはダーモット・マクラフリン(Dermot McLaughlin) にどこか似ているように聞こえるのだ。顔も似ている。ダーモットの出身地はデリーだから関係ないのかなあ。

 復刻事業の総仕上げのようなこのアルバムを出してくれた Gael-Linn には感謝。百頁近いブックレットで詳しい解説を書いてくれた Nicholas Carolan (Irish Traditional Music Archive) に大拍手。

 このアルバムがあれば三年間くらいは研究する材料に事欠かない。それにしても、昔の SP レコードって、2-3曲入りなんだけど、必ず歌と器楽との組合せなのね。元のカップリングが全部書いてあるので、SP を聞いているような気持ちで一枚一枚聞くことも可能。そうすると、一枚が五分くらいで、何とものんびりしそう。大体、一枚に70分も詰め込んだきょうびの CD は一気に聞きとおすのはしんど過ぎる。

 そうそう、なぜ、この時期まで Gael-Linn が78回転レコードを作っていたかというと、当時、伝統音楽を聴く家庭にはまだ電気が入ってなかったかららしい。だから、ゲール・リン・レーベルはそういう人たちのために、アイルランドで最後まで78回転レコードを作り続けた会社となった。だから、ほんとの音は SP 盤で蓄音機で聞かなくちゃいけないんだろうなあ。で、たぶん、そのほうがずっと音がよいはず。


<追記>
 このアルバムとその経緯について、つい10日前に Geoff Wallis がすばらしい記事を Mustrad に書いている。本アルバムの43トラックのうち、15トラックは1979年にゲールリンからLPで出ていたそうだが、残りは今回が初の復刻になる……はずだったが、何と無許可で米国で復刻版CDが何枚か出ているという。それは簡単に探せるらしい。うーん。どのアルバムのことだろう。憶測で書くのは控えるが、まさかあれやこれじゃないだろうな。