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The Rights of Man


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 きょうも、一昨日に引続き、廃盤間近のグリーン・リネット盤。貴重な録音が収められている。

 Various Artists: 《The Rights of Man: The Concert for Joseph Doherty》
  (Green Linnet GLCD1111, 1991)

 Greeen Linnet のサイトではいまこのアルバムが4ドルで買える(在庫一掃 clearance のコーナー)。

 あるときホーンパイプとスライドとはどう違うの、と訊かれたことがある。もちろん、4/4 と 12/8 の違いをダンスのリズムとして、あるいはチューンのリズムとしていろいろ言うことはできるだろう。けれど、ぼくはアイルランド音楽を基本的に詩歌の立場から眺める(たとえば、ジグなどでもその発祥はアイルランド語の詩のリズムに発すると考える立場に立つ)ので、何かいい例はないかと考えていた。

 そんなとき、たまたま聴いていた本アルバムで、「では次にホーンパイプ・ソングをやります」と言って <The Rights of Man> という歌が始まった。もちろん、あの有名な曲であるが、歌はぼくの知る限りではきわめて珍しい。こんな歌を覚えていれば、ホーンパイプを説明するのはやりやすかろう。ここではゲイブリエル・ドノヒュー(Gabriel Donohue)が歌い、伴奏をアイリーン・アイヴァーズ(Eileen Ivers)、ジョーニー・マッデン(Joanie Madden)、ドーナル・ラニー(Donal Lunny)がつとめる。この歌は本アルバムが収めるジョーゼフ・ドアティ(Joseph Patrick Doherty)の支援コンサートの大義にまことにふさわしい。

 このコンサートは米国で収監されていた史上唯一の IRA の人間、アイルランド出身のドアティを自由の身にするための慈善公演(ベネフィット・コンサート)として、米国やアイルランドアイルランド系の音楽家などが結集して1990年2月24日に開かれたものである。

 本アルバムの中身は真剣な思いのなかにユーモアもまじえ、人々の熱意が伝わる感動的なものだが、今日のグリーン・リネット・レーベルからは考えられない(失礼)ほど立派なリリースであった。多くの名演、名唱がぎっしり詰まっているが、二つだけ挙げると、マイクル・ドイル(Michael Doyle)神父による詩 'The Hunger Striker's Mother' (ボビー・サンズの母のことをうたう詩)の朗読と、アイルランド語の話者でもあったドアティのためにアイルランド語で歌った、トリャサ・イ・ヒャルウィル(Treasa Ui Chearbhuill)の <An Droighnean Donn> とはことにすばらしい。

 なお、その後のドアティについて記しておこう。1983年から1992年までニューヨーク市で収監されていたドアティは1992年に英国に送還され、ついに1998年11月6日に釈放された(当時の北アイルランド和平合意 'Peace Process' に伴う恩赦かと思われる)。