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今年中に30枚 (4) Chris Foster


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 30枚計画のやっと4枚目を手に入れた。Tradition Bearers シリーズで出ているフォスターの去年の盤。なお、他にも新しく仕入れたアルバムはいろいろあるが、30枚計画はそれとは別のいわば決め打ち計画。来年以降ずっと聞き続けるつもりの盤ばかり。

 Chris Foster 《Traces》 (Tradition Bearers LTCD3003, 2003)

 クリスは1970年代後半に Nic Jones, Martin Carthy, Leon Rosselson らと並び立つ大きな存在だったが、つい最近までアルバムが途絶えていた。このアルバムが実に久しぶりの盤(もと Green Man Productions からリリース)で、続いて今年《Jewels》が出ており、大変評価が高い。日本ではあまり知られていないと思う。ただ、1977年の《Layers》と1979年の《All Things in Common》は日本盤が入手可能。

 このアルバムは伝承歌10曲、Leon Rosselson の歌2曲を自身のギター伴奏で収める。いたってシンプルな作りだが、それだけにシンガーとしての力量や声の伸び、ギターの陰影などが手に取るようによくわかる。<Arthur McBride>のような有名な曲もあるが、Paul Brady のとはかなり違うヴァーションである。

 歌詞が全曲附属する。ブリテンの骨のある力感あふれる歌をじっくり聴きたい人にはおすすめ。このシリーズはどれを聴いても失望させられることはまずないが、その全体はこちらで見られる。

 ぼくの一番のお気に入りは今のところトラック8 <The Fowler>。アイルランドでは<Molly Bawn>などの題で知られる有名な物語を歌う。エプロンをしていた恋人を白鳥と間違えて撃ってしまった男の話。ここに聞かれるヴァーションはかなり珍しい。クリスは Gail Williams から習ったが、もとはノーフォークの Harry Fox から来ているという。

 もう一曲挙げるなら、無伴奏のトラック10 <The Flying Cloud>。アイルランドウォーターフォード出身の男がアフリカへ奴隷狩に行き、カリブ海で海賊を働く話。最後につかまり、死刑を前にしてこんな悪事の人生を歩むなよと語る。

 一番有名なのは最後のトラック<Raggle Taggle Gypsies>だろう。この曲のギターの音色は深みがあって素晴らしく、哀愁を帯びた声によく合う。この雰囲気はブリテンのトラッド・シンギングに特有のものだ。

 盤全体を通して実に聴きごたえがある。印象としては、見かけは堅い岩盤のようだが耳を澄ますとしなやかな歌声が力強く聞こえる洞のようと言えばよいか。トニー・ローズはいいんだけどあのコンサーティーナがなあ、などという人には、こちらはギターだけなのでお薦めって、ヘンですか。いや、もちろん、どちらもいいんですが。