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Clannad を古いアイルランド語から眺める


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 「Clannad をアイルランド語で解く」でアイルランドの音楽グループ Clannad を現代アイルランド語の立場から解いてみたところ、思いがけず、ssuzuki さんからコメントをいただいた。

 その後、古いアイルランド語まで少し手を広げて調べると、同じまたは似た綴りの語が昔からあることが判明した。このドネゴールのグループが an Clann as Dobhar 「Dobhar という町出身の一家」の頭文字をとってグループ名としたことはほぼ間違いないにせよ、アイルランド語の問題として考えたときには別の視点もあり得るかもしれないと、思い始めています。

 まず、おさらい。clann は現代アイルランド語ではふつうは子どもたちの意味で使うけれど、古くは家族や子孫の意にも用いた。

 『ケルト事典』(ベルンハルト・マイヤー著、平島直一朗、桜内理恵、小池剛史訳、創元社、2001、ISBN4-422-23004-2) の「クラン」の項(83頁)には次のようにあります。

クラン clan/eng. アイルランド語のクラン clann (古い語形 cland) から派生した英語形。ウェールズ語ではプラント plant (複数形。単数形はプレンティン plentyn)がこれに相当する。両方ともラテン語のプランタ planta を借用したものであり、《苗》のほか、おそらく《子孫》あるいは《末裔》ほどの意味もあった。〔後略〕

 この項目の説明で、私たちは言葉の歴史を垣間見るような気がします。言語の木と言ってもいい。まず、ラテン語のプランタ planta 「若芽、挿し木、苗」(羅和辞典)が根っこにある。そこからいろんなルートを通って、たとえば、英語のプラント plant 「植物, 草木; 苗(木); 挿し木(用切り枝)」(リーダーズ英和辞典)になり、ウェールズ語ではプラント plant 「子どもたち」になった。
 かたや、アイルランド語ではクラン clann 「子どもたち」になった。ラテン語にあった t の音は古いアイルランド語では -d の形で残ってたのが、その後、消えてしまった。

 ところで、同じケルト諸語でも、p-ケルト語に属するウェールズ語と、q-ケルト語に属するアイルランド語との違いが、上の違いに出ているように見える。つまり、印欧語の古い形では *qw 音で始まる語があって、そこからラテン語の形も生じたのだろう。q-ケルト語のほうでは qw 音が k 音に変化し、p-ケルト語では qw 音が p 音に変化するという経過をたどったことが推測できる。

 さて、そうすると、上の説明にあった古い語形 cland というのが気になる。こういうのを調べようとすれば、方法は決まっている。DIL にあたって、その用例を原典で確認すればよい。すると、ありましたねえ。まず、DIL の clann の項(縮刷版、119頁)。

clann ... (Lat. planta) ... (a) plant, planting, off-shoot; produce ...(c) children, family, offsping: ... Iadumdu .i. cland Essau, [Ml] 26b15.

つまり、「子ら」や「家族」や「子孫」の意の clann の用例中に cland (下線部分)が出てくる。あとは、ここに書かれた原典に当たって確認すればよい。ここから先は、古アイルランド語研究者向けの情報ですけど、興味のある人はおつき合いください。

 まず、「[Ml] 26b15」の解読。これは、The Milan Glosses on the Psalms という写本を指す。ラテン語聖書に古アイルランド語で註釈したもの。それの 26b の 15 を見ればよい。書物としては、Thesaurus palaeohibernicus, vol. 1 (DIAS, 1975/87) に収録(51頁)。

Psalmus IX.
15. iadumdu .i. cland essau

はい、ちゃんとありました。「イドマヤ人たち、すなわち、エサウの子ら」の意。この中身については、またいつか。

 ところで、DIL には clannad という見出し語もあり、それを最後に引用(縮刷版、119頁)。

clannad .. vn. of clannaid. (a) act of planting .. (b) act of thrusting ..

 ここから先は古アイルランド語の領域での議論になり、ぼくの守備範囲外。詳しいかたは日本に数人はおられるはずです。

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