Tigh Mhíchíl

詩 音楽 アイルランド

記事一覧

アメリカ詩を百篇、翻訳と註釈とともに

亀井 俊介、川本 皓嗣編『アメリカ名詩選』(岩波文庫、1993) 時間のない人のために結論から。アメリカ詩の良質なアンソロジーを求めている人が何か一冊手許に、という目的には最適の書。これ以上のものはちょっとない。 植民地時代から19世紀後半のエミリ…

キアラン・カースンが『真夜中の法廷』を訳すと

Ciaran Carson, The Midnight Court (2006) いま、ひとが『真夜中の法廷』を読みたいと思ったとき、英訳なら「真打ち」はカースン訳だろう。研究目的でも、純然たる愉しみのためでも。(日本語訳なら彩流社刊の『真夜中の法廷』を推す。) その理由。一、原…

ヒーニ訳の『真夜中の法廷』

Seamus Heaney, The Midnight Verdict: Translations from the Irish of Brian Merriman (C.1745-1805) and from the "Metamorphoses" of Ovid (2001; Gallery Books, 2014) [Kindle版] アイルランドのノーベル賞詩人シェーマス・ヒーニが訳したブリーアン・…

アシュベリの詩の秀逸な読み

川本皓嗣『アメリカの詩を読む』 19〜20世紀のアメリカの詩19編をまことに丁寧に読み解き、同時にそれらの詩の周辺の文学事情をも明快に説いた書。「入門書」としても読めるし、専門家が読んでも有益だろう。取上げられた詩人はポー、ロングフェロー、ホイッ…

表面上は見えないけれど地下水脈が無数に行き交う詩集。あちこちに光の明滅がある。何の賞もとっていないけれど、近年で最高の収穫のひとつ。

Seamus Heaney, Electric Light (Faber, 2001) アイルランドの詩人シェーマス・ヒーニの2001年の詩集。 このあとに出る詩集、たとえば、District and Circle (2006) は9/11や7/7の後であることを明瞭に意識している。現代人の意識を変えてしまうそれらの出来…

「神隠しされた街」について

若松丈太郎(詩)、アーサー・ビナード(英訳)、齋藤さだむ (写真) 『ひとのあかし』(清流出版、2012) 後世の人は日本文学史上の奇蹟と、輝かしい心ではなく哀切のきわみとともに、この詩人を想い起こすだろう。 1935年、岩手県に生れた若松丈太郎は、福…

現代詩のひとつの分水嶺

谷川 俊太郎『二十億光年の孤独』(集英社文庫、2008) Two Billion Light-Years of Solitude これはものすごい磁力をもった詩集だ。 「梅雨」における母音韻(assonance)のものすごさ。かと思えばアソナンスを切りアリタレーション(頭韻)かなにかがぶつけ…

日々 詩人のことばと暮らす

Faber & Faber Poetry Diary 2015: Green (Faber, 2014) いつごろから出ているのだろうか。英国のフェーバー社が詩の日記を出版している。少なくとも2013年版から毎年出ている。フェーバー社にゆかりの詩人たちの詩や詩集が紙面ところせましと載っている。 …

「歌」のような現代詩をかいた福中都生子の選詩集

福中都生子『福中都生子詩集』(五月書房、1973) 詩人、福中都生子(1928−2008)の最初の5つの詩集(第一詩集『灰色の壁に』、第二詩集『雲の劇場』、第三詩集『南大阪』、第四詩集『女ざかり』、第五詩集『やさしい恋うた』)の145篇のなかから68篇を選ん…

妙なる楽の音と朧な衣の舞――夢幻の詩

福井久子『飛天幻想』(編集工房ノア、2010) 神戸の詩人、福井久子(1929- )のいまのところ最新の詩集。表紙および本文の挿画を娘の田中美和が描いている。 飛天とは空中を飛ぶ天人である。別名、天、天衆、飛菩薩、楽天など。空中を飛び舞い、奏楽し、散…

松田誠思氏の講演〈「1916年復活祭蜂起」とW. B. イェイツ〉 'Easter, 1916'

松田誠思氏の講演<「1916年復活祭蜂起」とW. B. イェイツ>(2014年11月15日、大阪・ナレッジサロン)が蜂起の決断と詩人の結構とについて鋭い洞察を示したこと。このことを、その鋭さの尖端の部分だけでも書留めておこう。 まず、蜂起の決断。どこから考え…

渡辺陽子の詩とヤコブの梯子

産経新聞12月12日付朝刊「朝の詩(うた)」欄に載った読者投稿の詩。 小春日和(母) 栃木県小山市 渡辺 陽子 58 畳おもてが やわらいで へこんだ座布団が ふっくらとして 母さんが 光りのてすりを伝って おりてきた日は すぐわかる (選者 新川和江) この…

麦まき

産経新聞11月29日朝刊の「朝の詩(うた)」掲載の塚本幹雄さん(87、大阪府東大阪市)の詩は忘れかけていたものを呼びさますような響きがある。 麦まき お父が耕(かえ)し お母が塊(くれ)打ち 子が種子をまき 親子三人麦まきすまし やっとすんだと 見上げ…

加藤楸邨の句

遊ぶなり月夜の蟻のひとつぶと 大岡信さんの「折々のうた」(朝日新聞12月2日付)で「相手と自分の距離感と一体感のとり方がみごと」とのコメント附きで引用されていた。「蟻のひとつぶ」という部分が一度読んだら忘れられない。なぜこの句でこの蟻が意識の…

入沢 康夫の詩

朝日新聞10月7日付の「折々のうた」(大岡 信)から。 薬罐だつて、 空を飛ばないとはかぎらない。 入沢 康夫 『春の散歩』(1982)所収の「未確認飛行物体」という十六行の詩の冒頭二行。毎夜こっそり台所をぬけ出す、水がいっぱい入った空飛ぶ薬罐(やかん…

斎藤 史の短歌

朝日新聞9月18日付の「折々のうた」(大岡 信)から。 つねに何処かに火の匂いするこの 星に水打つごときこほろぎの声 斎藤 史 『風翩翻以後』(短歌新聞社、2003)所収。「女流歌人の最高峰」として、「批判精神の鮮明さにおいても、作品は常に華麗な後光に…

西中眞二郎の短歌

「折々のうた」(朝日新聞8月27日付)で紹介された歌(『春の道』平15所収)。 覚めてより耳に離れぬ唄のあり そがまた実に下らぬ唄にて 西中眞二郎 作者は昭和12年生まれ。いやあ、いいなあ。実にいい。こういう体験、あるような気がする。 dan というジャ…