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記事一覧

現代詩をめぐる小池昌代らの対談+佐藤優のキリスト教観

「中央公論」2015年 06 月号(中央公論新社2015) 【対談】 小池昌代と四元康祐とは十年前にも対談というか対詩している(『対詩 詩と生活』)。 今回は日本の現代詩や詩人であることをめぐって対話している。四元がふだんはドイツ在住であることもあり、201…

イェーツの幻の物語(1897年版『秘密の薔薇』)

W. B. イェイツ、栩木伸明編訳『赤毛のハンラハンと葦間の風』(平凡社、2015) 1897年版『秘密の薔薇』に収められた物語「赤毛のハンラハン物語」の本邦初訳。くわえて、1899年の詩集『葦間の風』初版から十八篇の詩を訳してある。 本を手に取るよろこびが…

イェーツの唯一の全詩集

鈴木 弘訳『W・B・イェイツ全詩集』(北星堂、1982) この訳詩集は1950年発行の決定版イェーツ詩集(マクミラン社)の全訳。その決定版の巻末にあるイェーツによる注の全訳もふくむ。さらに、訳者による評注、解説つき固有名詞索引も附属する。もはや古書で…

熱狂の時代をくぐり抜けたシェリー

シェリー、上田 和夫訳『シェリー詩集』(新潮文庫、1980) シェリーの叙情短詩を中心に選んだ訳詩集。詩論「詩の擁護」も収録。 詩そのものをじっくり読み味わうのに適した本だ。固有名詞などに註は附いているものの、巻末にまとめてあり、うるさくない。シ…

中国詩歌における対偶性

松浦 友久『中国詩歌原論―比較詩学の主題に即して』(大修館書店、1986) 詩歌を対象とした比較文学的考察の中でも、本書は中国詩歌の原論的な諸問題を、基礎的な主題に即して考察したものである。その主題は、詩と時間、詩と性愛、詩と政治、詩と評価、詩と…

するどくディキンスンにせまる訳詩集

エミリー・エリザベス・ディキンスン、中林孝雄訳『エミリ・ディキンスン詩集』(松柏社、1986) 中林孝雄はディキンスン詩を訳すにあたっての経緯(いきさつ)をこう書く。「気がついてみると、シェイクスピアやダンの恋愛詩にない、やや洗練さを欠いて素朴…

文字と音声との不思議な呼応を詠む笹井宏之の歌百首

笹井宏之『八月のフルート奏者(百首選)』(書肆侃侃房 新鋭短歌シリーズ、2013)[Kindle版] 名は体を表す、ということばがある。名は実体がどのような物かを示すという意味である。 ことわざめいた云い方として諒解していてもまさか本当のこととは考えぬ。…

本に鴉色の光を注ぎ、言語を植物と共に空へ持ち上げる管啓次郎の詩「シアトル」

石田瑞穂、管啓次郎、暁方ミセイ『遠いアトラス』(マイナビ、2014)[Kindle版] 三人の連作詩集の体裁をとっている。一番打者は石田瑞穂。彼が作品を管啓次郎に送信すると、今度は管啓次郎が暁方ミセイに作品を送信する。暁方ミセイが作品を石田瑞穂に送信し…

小笠原豊樹の新訳によるマヤコフスキーの代表作

マヤコフスキー、小笠原豊樹訳『ズボンをはいた雲』(土曜社 マヤコフスキー叢書、2014) 土曜社からマヤコフスキー叢書全15巻が刊行中。その第一巻が本書である。 千行を超えるこの長詩の表題そのものが、すでに強烈な詩句である。これを執筆中のある日、詩…

ミツバチが騒ぐ谷間で

須賀 敦子『遠い朝の本たち』(ちくま文庫、2001) 須賀敦子の本との関わりを書いたエッセイ集。 とはいえ、「ほんとうよねえ、人生って、ただごとじゃないのよねえ、それなのに、私たちは、あんなに大いばりで、生きてた」(「しげちゃんの昇天」)のような…

対訳形式でイェーツの詩54篇を収録

イェイツ、高松 雄一訳 『対訳 イェイツ詩集』(岩波文庫、2009) 2009年刊行のイェーツ訳詩集。W・B・イェーツ(1865-1939)の初期から晩年にいたる詩的経歴を代表する54篇を選んで、左頁に原詩、右頁に日本語訳、それに固有名詞等にかかわる脚注を載せた…

17人の訳者によるイェーツ訳詩饗宴

W. B. イエーツ、加島 祥造訳編『イエーツ詩集』(思潮社 海外詩文庫、1997) 異色のイェーツ訳詩集だ。おそらく最も薄い、わずか160ページのイェーツ訳詩集であることもさりながら、そこに17人もの翻訳者の翻訳が詰め込まれている。ふつうなら、こんな発想…

イェーツの複雑な諸相

ウィリアム・バトラー・イェーツ、中林孝雄・中林良雄訳『イェイツ詩集』(松柏社、1990) イェーツの詩は前期と中期と後期とでかなり違う相を見せるがそのいずれからもかなりの分量を収めた訳詩集。読みごたえがある。 イェーツの訳詩集はいくつかあるが、…

アヴァロンと「政治家休業日」

尾島 庄太郎訳『イェイツ詩集』(北星堂書店、1958) 本書にはアイルランドの詩人イェーツの詩「政治家休業日」('A Statesman's Holiday')が収められている。 イェーツ訳詩集はいろいろ出ているけれども、この詩は『イエーツ詩集』(海外詩文庫)にも『対訳 …

バランスのとれたディキンスン訳詩集

エミリー ディキンスン『ディキンスン詩集』(思潮社 海外詩文庫、1993) 複数の訳者によるディキンスン詩の日本語訳を編纂した本。くわえて、詩人論が二本、編者による解説と年譜、ジョンスン番号による索引が附いている。160ページの本ながら、内容に目配…

宇宙から光線は絶え間なく地表に注ぎ、

暁方 ミセイ『宇宙船とベイビー』(マイナビ、2014) [Kindle版] 不思議な詩集だ。訳も分からず、惹きつけられる。 何度も何度も、繰返しよむ。はじめから、イメジがくっきりと浮かんでくる。色や、湿り気、光の具合、透明感、生命体のかたち、そうしたものが…

現代詩の愉悦、ここにあり

福間健二『新しい人生 Selected Shorter Poems 1981~2013 vol.2』 (マイナビ、2014)[Kindle版] 福間健二の『新しい人生』は、『彼女に会いに行く』に続く自選詩集。この二冊で1981年以降の百四篇の詩を収める。 いろいろな傾向の詩が収められている。多く…

現代詩の極北はロックする

福間健二『彼女に会いに行く Selected Shorter Poems 1981~2013 vol.1』 [Kindle版] 福間健二の『彼女に会いに行く』は詩集の未来を暗示する。 明滅する声の交響に身をゆだねて、凄いスピード感で読み終わった━━ように感じたが、実際には一週間は優にかかっ…

意味なんて探さなくていい

三角みづ紀『夜の分布図』(マイナビ、2013)[Kindle版] よむ者のこころを開放するような詩集だ。 たとえば、「正しい音楽」という詩がある。すでに、その題名で、ひとは固定観念からときはなたれる。ことばの自由な海へとおよぎはじめる心地がする。 「正し…

オコナー訳のメリマンはたのしい絵をそえて

Brian Merriman,Frank O'Connor (trans.), The Midnight Court (O'Brien P, 1990) たのしい絵が詩にそえられている。 が、たとえば、電車の中でこの本を広げるのはちょっと恥ずかしい。エロティックな絵が混じっているからだ。この独特の絵は Brian Bourke …

メリマン『真夜中の法廷』の対訳テクスト

Brian Merriman, The Midnight Court/Cúirt an Mheán Oíche (Mercier, 1999) 今日メリマンの『真夜中の法廷』を研究しようとするひとは、まずオムルフーのテクストを用いるだろう(Liam P. Ó Murchú, Cúirt an Mheon-Oíche, Clóchomhar, 1982)。けれども、…

詩人レナド・コーエンの詩画集

Leonard Cohen, Fifteen Poems (A Vintage Short, 2012) [Kindle版] 一般にはシンガー・ソングライターとして知られているから、「詩のベスト・アルバム」とでも言えばいいか。 だけど、コーエンは、最初のアルバムを出す11年も前に最初の詩集を出している。…

ブローティガンの第五詩集

Richard Brautigan, The Pill Versus the Springhill Mine Disaster (Jonathan Cape, 1970) 耳の中でずっと鳴りつづけていたのは 'All Watched Over by Machines of Loving Grace' という詩でした。おそらく、5年間くらいは鳴っていたと思います。今は The P…

マザー・グースに関する古典的名著

Iona and Peter Opie, Oxford Dictionary of Nursery Rhymes (OUP, 1951) マザー・グースに関する参照図書としては、Opie 夫妻の古典的名著 The Oxford Dictionary of Nursery Rhymes (1951)を超えるものは、たぶん、ない。 あるとすれば、60ページほど増え…

マザー・グースの註釈を親しみやすく

William Baring-Gould, Annotated Mother Goose (Random House, 1988) マザー・グース(ナーサリ・ライム)を1巻本で手軽に註釈つきで読みたい場合に好適の本。 読みやすいレイアウト(広く取った欄外に註)と豊富な挿絵のおかげで読んで楽しい。 急いで付加…

19世紀のストリート詩人、ここにあり

ウォルト ホイットマン『おれにはアメリカの歌声が聴こえる―草の葉(抄)』(光文社古典新訳文庫、2007) アメリカ(現代)詩の父、ホイットマンは膨大な作品群をのこしている。 本書は今のところ最新の『草の葉』の日本語訳(抄訳)。しかも薄い。詩の部分は…

ダンテ『俗語詩論』の唯一の註解書――西欧の抒情詩の淵源をさぐるのに必須の文献

ダンテ・アリギエーリ、岩倉具忠(訳註)『ダンテ俗語詩論』(東海大学古典叢書、1998) ダンテが俗語(vernacular, ラテン語から派生した各国の言語、イタリア語、フランス語、スペイン語など)で詩の創作が可能であることを、実例とともに高らかに宣言した…

ダンテの『神曲』のプロヴァンス語部分まで完璧な唯一の訳

ダンテ(平川祐弘訳)『神曲』(河出書房新社、1980) 知るかぎりでは、平川祐弘訳の『神曲』は原文(ほとんどはイタリア語)のプロヴァンス語部分まで正確な唯一の日本語訳だ。したがって、そこまで完璧さを求めるのなら、この訳にとどめをさす。 そのプロ…

「荒地」の理解可能な読み――大風呂敷を広げないアプローチ

Nancy K. Gish, Waste Land: A Poem of Memory and Desire (Twayne's Masterwork Studies, 1988) T・S・エリオットの「荒地」(The Waste Land)は難解な詩として知られる。聖杯伝説と文化人類学の下敷きの上に、第一次大戦後の世界の荒廃を古今東西の引用を…

ヒーニと天皇陛下、皇后陛下の知られざる関係――ノーベル賞詩人ヒーニの第11詩集『電燈』

シェイマス・ヒーニー『電燈』(国文社、2006) 2013年8月30日他界したノーベル文学賞詩人、アイルランドの、いや人類の至宝シェーマス・ヒーニ。 その第11詩集 Electric Light の日本語訳。すでにこの原詩集については書いたので、ここではこの日本語版のみ…