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詩 音楽 アイルランド

記事一覧

発表の準備に時間をかける

諏訪邦夫『発表の技法』 1995年刊にもかかわらず今も現行書であることに本書の価値がすけて見える。 もちろん、PC を利用したプレゼンテーションの方法などは、最新のソフトウェアについての概説書がいくらでもある。だけど、問題はそれ以前のところにある。…

英語と生きた日本語との往来のために

中村保男、谷田貝常夫『英和翻訳表現辞典』 中村保男らによる『英和翻訳表現辞典』にはいろいろな種類がある。ここに取上げる最初の版(1984〔これは1978年から順次刊行されていた3巻本を一冊にまとめ増補したもの〕)以外に、200頁以上増補した『新編 英和…

'Joyce's Ulysses: A Guide' (iPad app)

2014年6月1日に、iPad 用のアプリとして 'Joyce's Ulysses: A Guide' が出た。註釈や音声をふくむすばらしいソフトウェアである。ジョイスの名作『ユリシーズ』をiPadで縦横に読むことができる。 原作の本文全文に加え、800点の註釈がついている。この本文は…

ジョイス『ユリシーズ』を原文で読むための註解書

米本義孝『読解「ユリシーズ」』 ジェームズ・ジョイスの『ユリシーズ』の作品前半部、第3,4,5,10,11 挿話を抜粋で取上げ、原文で読むための註解をほどこした書である。(本書の続篇『読解「ユリシーズ」〈下〉』は作品後半の第13,15,17,18挿話を抜粋…

紅茶はポットでいれるものだという、当たり前のことを丁寧に説く

堀江敏樹『紅茶の本―紅茶とじょうずにつきあう法』 堀江敏樹の『紅茶の本』は現在までに三つの版がある。初版(1989年)、増補改訂版(1992年)、決定版(2006年)の三つである。ここで取上げるのは増補改訂版である。 本書で度肝を抜くのは、冒頭に挙げられ…

世界の名歌をピアノ伴奏つきで39曲収録

『独唱世界名歌撰集―標準版 (No.1)』 世界各国の名歌のうち、日本でもよく知られた歌を39曲、ピアノ伴奏つきで収めた本である。 歌詞は原語と日本語訳詞と、両方が載っている。各曲の由来や特徴などについての説明はない。 本のサイズはA5判(148×210mm)で…

スコットランドとアイルランドの民謡72曲を解説とピアノ伴奏つきで収録

『世界民謡全集〈第4〉イギリス篇』 日本音楽書史上空前の大著『世界民謡全集』(全16巻)の第4巻(イギリス篇 II)。B5判(182×257mm)で各巻300頁ちかく、曲集としてはかなりの大冊。 編者門馬直衛はすでに日本語の定訳があるよく知られた曲についても、す…

イングランドとウェールズの民謡78曲を解説とピアノ伴奏つきで収録

『世界民謡全集〈第3〉イギリス篇』 『世界民謡全集』の第3巻(イギリス篇 I)。「イギリス民謡集」ははじめ1巻だけで完結するはずであったが、実際に編集してみたらとても1巻には収まらなくなったので2巻にしたとのことである。それほどイギリスには知られ…

近未来のミヤコと女剣士

恩田陸『雪月花黙示録』 時は近未来(おそらく21世紀後半)。所はミヤコ(平城京と呼ばれる)とナゴヤ(中部にある)。それを舞台に、ミヤコの凄腕の剣士、春日家のきょうだい(兄とふたりの妹)が、高校の生徒会長選挙をきっかけに、日本の再編をめぐる権謀…

芥川龍之介の短歌を読む

『芥川竜之介歌集』 大正3(1914)年から4(1915)年にかけての芥川龍之介の短歌や旋頭歌。 わずか二年間の歌を集めたものなのに、歌風は多彩である。 「紫天鵞絨」「桐」「薔薇」「客中恋」「若人」「砂上遅日」が収められている。これらの表題にはルビがな…

伯爵夫人の心の聖域とは

泉鏡花「外科室」(岩波文庫『外科室・海城発電』所収) 「夜行巡査」と並ぶ、鏡花の出世作。明治28(1895)年に発表された小説。 小説としては、ごく短いけれども、濃い。吉永小百合主演で映画化(1992)されたとき、その上映時間をつかって、「一瞬のよう…

その怪獣は八田義延という巡査なり

泉鏡花「夜行巡査」(岩波文庫『外科室・海城発電』所収) 鏡花の出世作のひとつ。職務にあまりに忠実な巡査を描く短編小説。 鏡花の作文技術の高さは早くも明白、隠れようもない。みごとな短篇。明治28(1895)年作。ディケンズもかくやと思われる、人物造…

泉鏡花が小説の文章を論じると

泉鏡花「文章の音律」 近頃の小説の文章に、音律といふことが忽にされて居る、何うして忽處ではない、頭から文章の音律などは注意もしてゐないやうに思ふ。 鏡花は小説の文章について、こう述べ、音律がゆるがせにされていると主張する。1909年に発表された…

一気に読ませる迫力がある漫画

サン=テグジュペリ『夜間飛行』 サン=テグジュペリの『夜間飛行』 Vol de nuit を漫画化したもの。 読み始めたらやめることができない。 1930年頃の南米が舞台。航空郵便事業開拓期の人間模様を迫真のタッチで伝える。 1931年にフランスで出版。その年のフ…

空飛ぶムーミンはパパを見つけられるか

トーベ・ヤンソン『小さなトロールと大きな洪水』 ムーミン童話シリーズの最初の作品。 楽しい。あたたかい。ふしぎ。 こんな物語が1945年にかけたなんて。おどろいてしまう。 かいたのは物語の文章と絵。作者のトーベ・ヤンソン(Tove Jansson, トゥーヴェ…

皇后さまが感動された童話

新美南吉「デンデンムシノ カナシミ」(『新美南吉童話集』所収) 童話を再認識するのに遅すぎることはない。 「カナシミハ ダレデモ モツテ ヰルノダ」 このことばを最初に読んだとき、雷に撃たれたかとおもうくらい、こころがゆさぶられた。ちいさな子が読…

空が青い ただそれだけで こんなに嬉しい

小原玲『アザラシの赤ちゃん』 動物写真家の小原玲が20年間撮り続けたアザラシの赤ちゃんの写真集。 見どころはアザラシの赤ちゃんが見せる愛くるしい表情の数々。生後わずか2週間しか見られない貴重な姿。 小原玲はもともと動物写真家ではなかった。戦争や…

相続税の改正に対応したガイド

天野隆『2時間で丸わかり 相続の基本を学ぶ』 相続税の基礎控除が平成27年1月1日から6割に引下げられた。課税対象者は当然増えた。本書は幸せな相続のために「節税」と「爽族」(争わない爽やかな相続を指す造語)に焦点を当ててまとめた本だ。 基礎控除額は…

彫刻のメタフィジクス

高村光太郎「ミケランジェロの彫刻写真に題す」 高村光太郎がミケランジェロを論じて宇宙論に至る文章。 詩人にして彫刻家の高村光太郎には「(私はさきごろ)」というミケランジェロの宗教を論じた文章がある。 これが宗教論としてはいかにも独断的で説得力に…

フロイトの『精神分析入門』『夢判断』をめぐる物語

ジークムント・フロイト『精神分析入門・夢判断 (まんがで読破)』 なかなか読まれない名作を「漫画」の形で親しみをもたせる「まんがで読破」シリーズの1巻。描きおろし。漫画化の担当を行うバラエティ・アートワークスは会社が沖縄県話国場にある。代表の兼…

段落の長い良質の散文

第150回芥川賞受賞作の小山田浩子「穴」について(『穴』所収)。 ペソアがこんなことを言っている。「良い散文を書くためには、詩人でなければならない。というのも、よく書くためにはいずれにしろ詩人であることが必要だからだ。」 すると、小山田浩子は詩…

聖女マリナの伝説を翻案した芥川龍之介の小説

芥川龍之介「奉教人の死」(新潮文庫『奉教人の死』所収) 熱心な芥川の読者であっても、さぞかし読みにくい小説ではないか。 けれども、キリシタン物に親しんでいる人や、ヤコブス・デ・ウォラギネ(イタリア・ジェノバの大司教)の『黄金伝説』を知る人には…

空飛ぶ生き霊(すだま)

大和和紀『源氏物語 あさきゆめみし 完全版(2)』 雲居を想う源氏の姿が印象的な第2巻。 いろいろあって光源氏の北の方(妻)、葵の上が世を去る。これからやっと夫婦の情も通うかと思えた矢先だった。それだけに、源氏は思い断ち切れず、雲をながめ、葵の…

日本文学の宝がマンガの宝となった

大和和紀『源氏物語 あさきゆめみし 完全版(1)』 死に行く桐壺の更衣は息子(二の宮〔第二皇子〕=のちの光る君、光源氏)にこう言う。「弱かったわたくしがこうしたあなたの母となれたのは……愛が勇気を与えてくれたから……その愛をあなたにのこしましょう…

弾丸のように月明の中に疾駆する女性をえがく

岡本かの子「快走」 岡本かの子の1938年の小説。2014年の大学入試センター試験の国語の問題に出題された。厳しい冬を過ごす受験生に疾走する勇気を与えるような、すがすがしい小説。 女学校を出て、家の手伝いをしている道子は兄の陸郎の正月着物を縫ってい…

「遠い曲」に出会えるよろこび

権藤芳一『平成関西能楽情報』 関西演劇評論の重鎮による関西能楽界の現状と展望をまとめた書。 平成にはいってからの評論をまとめてあるので題に「平成」とつく。能楽専門誌に掲載されたものが中心なので、ひとつひとつは短く、読みやすい。 創見に満ちてい…

クラッシュ症候群の理解の必要性を痛感させられる

菊地昭夫『Dr.DMAT〜瓦礫の下のヒポクラテス〜 5』 東京DMAT(災害派遣医療チーム)の八雲医師の活躍を中心にえがくシリーズの第5巻。クラッシュ症候群への理解の必要性を痛感させられるエピソードが取上げられている。 東京都内に大規模地震が発生し、東京D…

災害医療に悪意をいだく人間の登場

菊地昭夫『Dr.DMAT~瓦礫の下のヒポクラテス~ 4』 災害医療(災害現場で施す医療)をめぐるドラマを描く漫画シリーズの第4巻。 TVシリーズも放送されたが、登場人物の内面を深く掘下げた描写は、こちらの漫画のほうに軍配が上がる。特に、主人公の内科医・…

災害医療でのインプロヴィゼーション

菊地昭夫『Dr.DMAT〜瓦礫の下のヒポクラテス〜 3』 あれから2年。血を見るだけでこわがっていた内科医、響(ひびき)は、現場経験にくわえ、外科での研修などもへて、たくましくなった。 災害の現場で必要な資材や器材がなくとも、即興医療(インプロヴィゼ…

災害派遣医療でのさらなる試練と天才脳外科医出現

菊地昭夫『Dr.DMAT〜瓦礫の下のヒポクラテス〜 2』 東京DMAT隊員・八雲響の葛藤と成長をえがく第2巻は、人間ドラマとして読みやすい。災害医療は自分向きでないと思い、辞めたいと願う医師の思いと、周囲の状況とが運命的な交わり方をするさまを劇的にえが…